小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

プロダクトマネージャーに訊く #5:GMOペパボ山本さん(前編)

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― まず山本さんご自身について教えて下さい。

GMOペパボ株式会社の山本です。ハンドメイドマーケット『minne(ミンネ)』のプロダクトマネージャーを担当しています。

2003年にまだ社員数が非常に少ない時代のペパボにデザイナーとして入社しました。まだ10人くらいの頃です。当時は主なサービスがレンタルサーバーの『ロリポップ!』ぐらいしかありませんでしたが、それからどんどんサービスが増えていきました。ブログサービスが流行り始めた頃で、ブログサービス『JUGEM』の立ち上げにデザイナーとして関わりました。

ペパボは3社目なんですが、ペパボに入る前は紙媒体のデザインをやっていました。新卒で福岡の印刷会社に入社してデザイナーとして働いて、1年ほどでフリーペーパーやWebサイトを手がけるデザイン会社に転職しました。

当時、趣味の写真をテーマにしたホームページを運営してたんですが、ホームページの掲示板に創業者の家入さんを初めペパボの人たちがコメントしてくれていたんです。それがきっかけで家入さんと家族ぐるみで遊ぶようになりました。前職を辞めた足で人数分のジュースを手土産にペパボのオフィスに行ったんですが、その時に誘ってもらって転がり込むような形でペパボに入ることになりました。今では考えられないような選考ルートですね。その後2004年の本社移転に合わせて、僕も転勤組として東京に移りました。

30days Albumをきっかけにデザイナーからプロダクトマネージャーへ

― もともとデザイナーだった山本さんがプロダクトマネージャーになったのはどういう経緯でしょうか?

2008年に社内で新規事業の公募イベントがあり、個人的に写真を撮るのがとても好きだったこともあって、『30days Album』という写真を共有するウェブサービスを提案して事業化しました。プロダクトマネージャーとしての役割を担うようになったのはその時からです。その後、PaaSの『Sqale(スケール)』というサービスを立ち上げたあと、昨年の9月からminneに携わるようになりました。

― デザイナーから企画側にシフトしていく過程で苦労したことはありますか?

最初は結構苦労しました。30days Albumの立ち上げは3人ぐらいのチームでしたので、自分でデザインしながらエンジニアと一緒にプロダクトの企画や設計をしていました。事業責任者として数字も見ていたので、開発現場のディレクションをしながら数字を管理するという二足のわらじ状態が大変でした。

また、ずっとプロダクト開発に関わってはいましたが、デザイナーとしての経験がベースなので、プログラミングのことはやっぱりわからないんです。なので、エンジニアに「これはできる?」といったやり取りが繰り返し必要で、今振り返るとロスが多かったと思います。実装が難しい突飛なアイデアを押しつけようとしてしまったこともあります。

― 「プログラミングのことがわからない」という弱点をどのように克服したのでしょう?

30days AlbumはRuby on Railsで作っていたので、せめて読めるようになろうと思って独学でRuby on Railsを勉強しました。自分でプログラムを書かかないとしても、エンジニアと会話はできないと信頼関係は生まれません。エンジニアとクロスする領域を増やしたいという思いがありました。

Ruby on Railsチュートリアル』という、Railsを学ぼうとする人が一度は通るチュートリアルサイトがあります。12章まであって結構ハードなんですが、それをとにかく最後までやろうと決めてやりきりました。エンジニアに話したら「あれ本当にやったの?」と驚かれました。

チュートリアルで一通り学んだことで、インターネットサービスがどうやって動くのかというおおよその仕組みがわかったんです。実際のサービスのコードも「こういうことをやろうとしてるんだな」というのが少しずつわかるようになってきました。そうするとエンジニアからも「こいつは話せばそれなりにわかるやつだ」と思ってもらえるようになって、物事がスムーズに進むようになりました。

― やっぱり自分でやってみるって大事ですね。

本当にそう思います。

― 数字を伸ばしていくうえでは、プロダクトだけでなくマーケティングやプロモーションも必要になってきますが、その辺りはどうされていましたか?

30days Albumの時は、なかなかマーケティングにコストをかけられませんでした。ただ写真を誰かと共有したい時に使うサービスなので、写真をアップロードした人が誰かに必ず宣伝をしてくれる構造になっていました。そのサービス構造に助けられて、ほとんどプロモーションせずに一定数のユーザーを常に獲得できていました。

― ユーザーがユーザーを呼ぶ構造は最初から狙っていたんですか?

最初はそこまで考えてはいませんでした。期間限定で写真を共有できたらプライベートな写真でももっとオンライン上でやり取りできるんじゃないか、みたいなアイデアからスタートでしたサービスでした。

ネットにアップされる写真は氷山の一角でしかなくて、水面下に眠っている部分、ローカル保存されている写真をオンラインに引き上げたい、という思い先行で企画したサービスだったので、事業としてどう成立させるかという点は、色々と試行錯誤しました。

― 試行錯誤しながらPMや事業責任者としての振る舞い方を学んでいったんですね。

そうですね。minneに異動する前の部署の上司は、事業責任者としてロールモデルになる人でした。ロジカルに物事を捉えて正論をズバッと言って周囲を納得させたり、ビジネス視点を正しくメンバーに伝えたりする姿を見て、「こういうやり方をすればいいのか」と事業責任者として振る舞い方を学ぶことができました。さらにプログラミングを学んだことで、技術とデザインとビジネスの3つに関してはメンバーと最低限の会話ができるようになりました。

― 元デザイナーとしてつい自分で手を動かしてデザインしてしまう、なんてことはありますか?

いえ、基本的にAdobe製品は起動しないことにしています。30days Albumを始めて2年ぐらい経ったときに、専任のデザイナーをアサインしてもらえたんですが、彼がすごくできる人だったので「この人にお任せすれば僕はデザインをしなくてもPMとしてやりたいことができるな」と思ったんです。自分のデザイナーとしての引き出しにもそろそろ限界を感じていたので、マネジメントにシフトすることに決めてそれ以来デザインは担当者に任せることにしています。

― 自分でデザインしないことについては葛藤はなかったんですか?

そうですね。むしろデザイナーが入ってくれて本当にありがたいなと思っていました。自分一人でデザインしている限り、アウトプットは自分の想像の範囲を超えられません。「こういう課題があるので、もっと良い解決策を考えて欲しい」とデザイナーに依頼すると、僕が考えた解決案を超えるアイデアが出てくるんですね。メンバーが自分の想像や期待を超えるアウトプットを出してくれるのは、自分自身でデザインする以上に楽しい体験です。

minneで作り手個人にスポットライトが当たる場を作りたい

― minneについて教えて下さい。

minneはハンドメイド作家と購入者をつなぐCtoCのマーケットプレイスで、2012年にスタートしました。作家人数は2016年5月の段階で23.3万人、作品点数は2,970,000点という、国内最大のハンドメイドマーケットサービスに成長しています。もともとWeb中心のサービスだったんですが、去年からアプリにシフトしています。

― ユーザーはどんな人達が多いんですか?

ユーザーの9割以上が女性です。趣味でモノづくりをしていた方や、主婦や育児をしている方も、家にいながら活躍できる場としてminneを使っていただいています。モノを作ることが好きな人が世の中にはこんなにいるんだなと実感します。

― 作家の方はminneでどれくらいの収入を得ているんでしょうか。

一番多い方で、月に400万円近く販売している方がいます。

― えっ、すごいですね。

先日テレビでminneをご紹介いただいたんですが、作家さんが2名出演されていて、どちらの方も月に30万ぐらいの売上があるとおっしゃっていました。

材料費などコストがかかる部分はあるので利益率は作家さんによって異なりますが、主婦の方が趣味で作っていた作品が、minne主催のコンテスト「ハンドメイド大賞」で賞を受賞したことをきっかけに、メーカーから声をかけられ、キットが販売される事や、本を出版された作家さんも中にはいらっしゃいます。作家活動のステップアップの場としてもminneを使っていただいています。

― まさに新しい働き方を作っているのですね。

そうですね、個人の作り手に光が当たって活躍できる場になるといいなと思っています。作家さんから「これからは制作を本業にしていきます」という報告をいただくこともあって、すごく嬉しいです。

ユーザーとリアルに接することで、ハズレのないプロダクト改善を実現する

― 山本さんはデザイナー出身で写真が趣味ということで、ハンドメイドの作り手の方の気持ちがよく理解できるのではないでしょうか。

もともとデザイナーなので手を動かすのも好きですし、モノを作って誰かに認められることの楽しさをずっと実感してきたので、作り手の気持ちはよくわかります。

僕はminneの立ち上げメンバーではなく、後からminneチームに異動してプロダクトマネジメントをすることになりました。そうした場合にはサービスの世界観やユーザーにどれだけ共感できるかが重要になると思いますが、自分自身がデザイナーとしてモノを作る仕事をしてきた経験から、「やっぱりこういうサービスは必要だよね」と自然と思うことができました。

― PMとしては主観的な思いと客観性のバランスをとる必要があるかと思いますが、その点は何か工夫をしていることはありますか?

そのプロダクトが好きかどうかというのはPMを務める上での最低条件だと思いますが、自分の思いが強すぎると周りが見えづらくことがあります。僕も何度か失敗を重ね、一歩引いて客観視できてるか、自分の後ろ姿を見ることができているかを意識的に確認するようになりました。

以前別のプロダクトで、自分の強い主張でエンジニアを説得して作ってもらった機能が、思ったほど使われなかったということがありました。やはり思い込みでモノを作ってはいけないなと戒めになった出来事でした。人を巻き込んでうまく行かなかった時の心理的なダメージを思い知りましたね。

今では成功確率を上げるために、リアルな場でのユーザーインタビューなどを通じて自分の仮説が本当に正しいのか客観的に検証してから取り組むようにしています。

― 実際にminneのユーザーさんと接する機会は多いんでしょうか。

はい。東京の世田谷と兵庫県の神戸に、作家さんが気軽に遊びに来れる「minneのアトリエ」があって、minneのスタッフが作家さんとお会いしたり、作家さん同士が交流する場にもなっています。

アトリエでは定期的に勉強会を開催していて、minne上で自分の作品を魅力的に見せる写真の取り方や、紹介文の上手な書き方などを学ぶことができます。「自分の作品をネットで売る」という行為は作家さんにとって最初はハードルが高いので、アトリエではつまづきやすい所を一つ一つフォローしています。作家向け勉強会は、募集をかけると募集枠の何倍もの申込をいただきます。

― 本社から遠い神戸にもアトリエがあるんですね。

はい、神戸市と提携し、デザイン・クリエイティブセンター神戸/KIITOに「minneのアトリエ」を開設しました。神戸市は重点施策として『働き方改革の推進』をおこなっていて、若者が活躍できたり、それぞれの才能を活かして多様な働き方ができる環境作りに力を入れています。神戸で活躍する作家さんが増えるように、さらに現在関西方面で活躍している作家さんに活用頂けるように「minneのアトリエ 神戸」の開設を提案しました。

― ユーザーの声を活かしたサービス改善のサイクルができているのですね。

たくさんの方にご利用いただいていますがもちろん課題もあります。アトリエでは作家さんとお会いしてインタビューしたり、座談会を開いたりもしています。

事前にユーザー課題について仮説を立てて作家さんに投げかけると、「いや、それは全然困ってないです」と言われることもあります。逆に「そうそう、そこが使いづらいです」と全員が共感してくれることもあります。どちらも作家さんから直接聞ける生の声なので、サービスを運営している僕たちにとって大変貴重な意見で気付かされることがたくさんあります。

また、日頃からminneではカスタマーサービスのチームが作家さんの色々な要望を受け取ってくれています。共有された情報を参考に、実際に作家さんに会って話を聞くと「これは確かに改善が求められているな」ということがわかります。サポートのメンバーは電話やメールで直接作家さんと日々接しているので、要望の温度感を一番把握してくれていますね。

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チームで共有しているminneユーザーのペルソナ

― アトリエで得られたユーザーの声を活かした改善例を教えてもらえますか?

minneは作品の並び替えが大変だと以前からユーザーさんの声がありました。僕らもそれをなんとかしたいと思っていたんですが、大量の作品リスト上の作品をドラッグ&ドロップで自由に並び替えるような機能は実装コストが高くてなかなか着手できませんでした。そこで「ユーザーが本当に困っていることは何なのか」ということに立ち戻って考えることにしました。

実際にアトリエに作家さんにお越しいただいて、どういう時に並び替えができないと困るのか聞いてみたところ、実はそこまで高機能なものは求められていないことがわかりました。例えば、「去年販売した季節物のアクセサリーを同じシーズンになった時にもう一度作品リストの手前に持ってきたい」とか「多くの作品を出品していると10回くらいクリックし続けないと先頭に持ってこれない」「一旦売り切れてしまったオーダー作品は一番後ろに持ってきたい」という声を実際に聞くことができました。

作品を自由に並び替えたいのではなく、先頭や一番後ろに移動させたいだけなのにすごい数のクリック操作を強いられることがストレスになっていることがわかり、適正なコストで必要十分な機能改善を行うことができました。

― プロダクトの改善はユーザーの声を元にすることが多いんでしょうか?

長期的なビジョンの実現や半期ごとの方針に沿った開発もあれば、短期的な改善効果を期待する開発もあります。新機能開発も既存機能の改善も、最終的にはサービスの成長にどうつながるかという観点で企画します。

▼ 後編に続く

2016年5月の注目記事まとめ

プロダクトマネジメントに関する記事で、5月に話題になったものをピックアップしてご紹介。

Inspiredで紹介されているフレームワークを、eurekaでは実際にどのように使っているか解説されています。

 

プロダクトマネージャーの思考をブラッシュアップする9つのカード – aomeganeビジョン | 五反田で働くプロダクトマネージャーのブログ

freeeのPMチームで利用している9つのカード。企画の妥当性を検証するためのチェックツールが紹介されています。冒頭のInspiredの「10の質問」がベースに。

ちなみに私の個人的なチェックリストには、
・当社の製品が存在しないと困るのはだれか
という項目があります。ターゲットとその課題を言語化するときに便利です。

 

いわゆる「ハマる仕掛け」のネタばらし。ビジネスとして継続させるには使い続けてもらう工夫も必要。とはいえ行き過ぎれば依存した結果燃え尽きてしまい離脱に繋がるのでは。

 

実は曖昧に使っていそうな言葉。個人的にはスケッチしながらコンセプトを考える派です。

 

PMとしては利用頻度の高いツールではないかもしれませんが、基本は理解しておいたほうがいいですね。

 


プロダクトマネジメントTOYOTA起源論をさらに遡り、徳川家康起源論に。「最新事例を知りたければ海外ではなく三河をみるべし」

プロダクトマネージャーに訊く #4:Kaizen Platform瀧野さん(後編)

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チーム開発を成功させるためのプロダクトマネジメント

― 最近、日本でもプロダクトマネジメントが注目されていますが、その理由はなんだと思いますか?

小さいチームでも大きな影響力を持ちうることや、チームの力を最大化することで新たな価値を生み出せることに、皆んなが気づき始めているのでしょう。その手段の一つとしてプロダクトマネジメントが注目されているんじゃないかというのが個人的な見立てです。

チームの重要性はスタートアップであれ大きな会社であれ変わらない。少し前に「ビジョナリー・カンパニー」がトレンドになったことががありましたがビジョンやイノベーションの重要性が先行して注目されて、それを実現するチームを支える役割としてプロダクトマネージャーが必要とされるようになったのではないでしょうか。

― もともと個人でビジネスをしていた瀧野さんがチームの重要性に気づいたのはどんなきっかけがあったのでしょうか。

GREEの時の経験が大きいですね。GREEに入って最初の仕事は、売上が下がるトレンドにあったソーシャルゲームをリニューアルすることでした。売上目標と撤退期限が決められているプロダクトをエンジニア2人と新卒一人の4人のチームで立て直すことになったのです。

普通にやっていたら達成できない高い売上目標が設定されていたので、「どうやったら売上を伸ばせるか」ではなく、「どうやったらゲームチェンジを仕掛けられるのか」ということをチームで議論しました。

どういうゲームが流行っているのか、ユーザーはどういうものに興味を持つのか、どういうメカニズムでソーシャルゲームにハマるのか、など色々なことを調べてプロトタイプを作り、テストを繰り返した結果、売上を大きく伸ばすことができました。目標から逆算してやるべきことをチームで知恵を絞って考える。そうしたら見事に目標を達成できた。コラボレーションが生む力を実感できた成功体験です。

ただ、その頃は「プロダクトマネジメント」という言葉は知りませんでしたし、意図的に仕掛けられてはいなかったです。エンジニア、プロジェクトマネージャー、マーケターといった、違うスキルセットを持った人たちを集めてチームにし、目標に向かって自立的に稼働するようにする。こうしたマネジメントを意識的にやったのはやはりアメリカの子会社でプロダクト開発の組織作りをしたときですね。

本質的な価値を見極めてチーム全員が腹落ちする状態にすること

― 良いプロダクトを作るためにはこうすべき、という定石があれば教えて下さい。

「本質的なプロダクトの価値を考える」ということです。我々が作るプロダクトはなぜ価値があるのか、なぜ買ってもらえるのか、ということを突き詰めて議論します。開発期間の3割はそうしたディスカッションに時間を割いています。
その際に主観ではなく客観的に価値を捉えることが大切です。toCならコンシューマーの心理や行動、toBなら構造を客観的に理解する必要がある。そのためにはユーザーインタビューや市場調査、統計調査を通じてマーケットを見ることです。

自分の頭の中の仮説だけでプロダクトを作ると大抵ダメですね。思い込みを外すのはすごく難しいんですが、自分に対して正当な批判を行って主観を外すことがPMには求められます。

もう一つは、本質的な価値は何かということについて、チームが腹落ちしている状態にすることです。いくら要件定義を細かくしても、何を達成するために作っているのかわからないと、拘りや熱量も生まれませんし、なにより良いアイデアも出てこないんですよね。

それだけでなく、実装のしやすさを優先して要件を修正するような、訳のわからないことが起きてしまいます。本質的な価値を実現する上で、これは完全にアウトです。価値を提供するために何が一番良い選択なのか、チームのメンバーひとりひとりが判断できるようにすることが良いプロダクトを作るための必須要件です。

― 逆にこういうやり方をすると失敗するというアンチパターンはありますか?

目的が本質的でないオーダーを安請け合いすると失敗しますね。そういうプロジェクトでは大抵スケジュールが先に決まります。例えば、決算までに何らかの成果を言えるようにしなければならないから何か出してくれ、といったように、何を成すべきかという議論が無い中で、いつまでに何かを出してくれ、という期日だけが決まるようなケースです。

プロダクトマネージャーは真意のわからないオーダーに“YES”と言っちゃいけない。「なぜやるのか」「その時に達成しなきゃいけないことは何か」ということを経営に対して問わなければならない。そういうコミュニケーションをきちんとしないでただ受け入れてはいけません。

そういうわけのわからないプロジェクトでは、期日に近くなるとチームメンバーが「デスマーチだ」と言い始めます。目的が明確で一生懸命やっているときは忙しくてもデスマーチだとは言わないんですね。目的を達成できるようにスケジュールは自分たちで決めるし頑張るんですよ。なぜやるのか、ということを皆が強烈に自分ごと化しているときは、良いプロダクトができます。

― これからPMをめざす人とか悩んでる人におすすめの本とか、こういう本を読んでおいた良いよとかっていうのはありますか?

このインタビューシリーズの以前の記事でも紹介されてましたが、Inspiredは実例を交えた良い本ですね。あれに加えて“CRACKING THE PM INTERVIEW”という本がおすすめです。プロダクトマネジメントについて広く浅く書かれた本なので、この本の後にInspiredを読むとよく理解できると思います。 

世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 ~トップIT企業のPMとして就職する方法~

世界で闘うプロダクトマネジャーになるための本 ~トップIT企業のPMとして就職する方法~

 

 “TEAM OF TEAMS”という本もこれからPMになる人にはお勧めです。ちょっと前に「チームが機能するとはどういうことか」という本がエンジニアの間で話題になりましたが、“TEAM OF TEAMS”のほうは読み物として単純に面白い。機能しないチームと機能するチームの対比がすごくわかりやすく描かれています。 

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

TEAM OF TEAMS (チーム・オブ・チームズ)

  • 作者: スタンリー・マクリスタル,タントゥム・コリンズ,デビッド・シルバーマン,クリス・ファッセル,吉川南,尼丁千津子,高取芳彦
  • 出版社/メーカー: 日経BP
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 

 もう一つはマーケティングベーシックセレクションシリーズにプロダクトマーケティングという本があります。この本ではプロダクトマーケティングについて広く浅く体系的にまとめられています。 

 PMの仕事の中でもプロダクトマーケティングは特に重要です。プロダクトマーケティングを理解することで自分たちのプロダクトの価値を俯瞰的に捉える能力が身に付きます。

経験や知識以上に重要な「情熱」や「我の強さ」

― 記事の読者に伝えたいことはありますか?

もしKaizen Platformがやってることを見て「いいな」と思ったらぜひ話聞きに来て欲しいです。PMが僕を含めて2人しかいないんですよ。30人エンジニアいるので、あと二人ぐらいPMがいてくれると助かります。

― こういう人に来て欲しいという人材要件はありますか?

我が強いことですね。さきほどの「主観は外せ」という話と矛盾しているように聞こえるかもしれませんが、「主観を外せるけど我が強い」みたいな人が理想ですね。

Kaizen Platformはすごくディスカッションが多い会社なんです。アジェンダが決まっているミーティングは短時間で終わらせるべきですが、答えがわからないことを話すときは何回でも何時間でも話すようにしています。だから突き詰めて考える力や、拘りや我の強さがすごく大事です。

諦めないでロジックを突き詰めることができる人は、すごく楽しく一緒に仕事できるんじゃないかと思います。

― PMとしての経験や知識よりも、我の強さを求める、と。

私自身が叩き上げでプロダクトマネジメントを学んだということもあるんですが、あんまり方法論に囚われないほうが良いと思っています。経験はないよりあったほうがもちろんいいんですが、手法は常にアップデートされますし、時流を捉えて世の中が求める新しい価値を発見する上では、経験が役に立たないこともあります。ですから経験よりも本当にやりたいと思っているか、情熱を持っているか、ということがすごく大事です。

PMになる人には、「自分が本当にそれをやりたいと思っているのかどうか」を大事にして欲しい。PMは誰よりもその事業やプロダクトについて考えないといけないポジションです。だから心からやりたいと思えないと考えきることができません。

僕はやりたくないことはやりたくないタイプなので、職業的なPMは向いていないと思います。「これはすごい価値がある。ぜひやりたい」という強い衝動が生まれたときは良い物を作れるんですが、そうじゃない時は難しい。僕自身はそうだし、他の人を見ていてもそう感じます。

― 情熱や衝動以外に必要なものはなんでしょうか。PMはコードを書けるべきか、という点が議論になることがありますが、PMにエンジニア経験は求めますか?

書けたほうがいいんでしょうが、要は自分の強みをどこに持つかです。自分の弱点を認識して、それをどう補うか。メンバーが弱点を補ってくれて、チームとして成果を担保できるのであれば問題ありません。ただそのためにはコミュニケーション能力や、思考のオープン性が求められます。

とはいえ、出来ることと出来ないことは知っておいて欲しいですね。実現性のないアイデアに価値はないと思っています。僕が自分でコードを書いていたのはもう十何年も前ですが、その後もずっとエンジニアがやっていることを横で見てきたので、最低限の概念や仕組みは理解しているつもりです。

もしコードが書けないことを弱みに感じているのであれば、1回勉強して何か作ってみるのはどうでしょう。「こういうプロダクトを作りたい」というアイデアがあるのであれば、自分でプロトタイプを作ってみて誰かに触ってみてもらうぐらいのことはした方がいい。それぐらいの情熱がないと、「作りたい」という気持ちは嘘だと思う。自分で作るのが難しければ、知り合いに頼んでもいい。自分のアイデアを何らかの方法で実現してみるという経験は、PMを志す人とって必ずプラスになると思います。

― ありがとうございました。

 

プロダクトマネージャーに訊く #4:Kaizen Platform瀧野さん(前編)

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― 自己紹介をお願いします。

Kaizen PlatformのSVP of Productionの瀧野です。現場のプロダクトマネジメントをしながら、プロダクト開発組織のマネジメントを行っています。

Kaizen Platformは現在日米あわせて100名ほどの組織ですが、2年前に10人目の社員として入社しました。

創業当初から変わらない世界観に対して、仮説検証の結果をみて戦略をアップデートすること。新たに明らかになったイシューに対して優先順位をつけて解決策を考えること。なぜ解決すべき問題なのか組織内で共有すること。こうしたことが僕の仕事です。

マーケティングに関わる人のプラットフォームを作りたい

― Kaizen Platformさんはサービスを通じてどのような価値を提供しようとしているのでしょうか。

Kaizen Platformは「A/BテストのSaaSで、テストパターンの制作をクラウドソーシングできるサービス」と認識されていると思います。実際にこれまでは「マーケティングのROIを最大化できるプロダクトです」と訴求していました。A/Bテストはコンバージョンゴールに近いところでやったほうがレバレッジがされるので、色々な人の案でテストすることで効果を最大化できる、と。

ただ、顧客が求めているのはA/Bテストツールでもないし広告の運用ツールでもない。必要なのは、自社の状況に合わせて、学習サイクルを回しながら事業を健全な方向に伸ばしていけるソリューションです。

クライアント企業のマーケッターであれ、グロースハッカーやクリエーターであれ、マーケティングに関わる人たちが改善活動を続ける上でなくてはならないプラットフォームを提供したいと思っています。

マーケティングの改善活動を続けるためのプラットフォーム、ということですね。

そうです。マーケティングのソリューションは導入するだけで効果が保証されるわけではありません。「競合があのソリューションで上手くいったらしい」「何でうちの会社はやらないんだ」といったやり取りの中で新しいソリューションに飛びついて失敗するのは不幸なことです。マーケティングソリューションの分野は一度試して期待した成果を得られないとすぐ止めてしまうというケースがすごく多いんです。

約束された効能をお金で買う感覚だとうまくいきません。不確実性が高いなかで、自社やマーケットの現状やあるべき姿を正確に捉えるのは難しい。だからこそ仮説を立て、実行し、結果を分析する、というイテレーションを回すしかない。ただそうした改善のサイクルを回せる人がまだあまりいません。Kaizen Platformのサービスによって、マーケターが現状とあるべき姿を正しく定義でき、マーケティング戦略を自信をもって立案できるようにしたいと思っています。

― A/Bテストを効率的にできる、ということでなく、マーケティング活動を正しく行うことができることが価値である、と。

はい。プロダクトが提供すべきなのは機能的な価値だけでなく、使う人にとっての情緒的な価値を提供すべきです。機能性だけで売っているプロダクトはいつか別の何かに駆逐される。顧客が愛着を持つようなユニークなバリューを提供する必要があります。

提供したいのはA/Bテストで売上が上がるという機能的価値だけではありません。「自分たちでマーケティングをコントロールしている実感を持てる」ということが僕らが提供したい情緒的価値です。なぜ施策が成功したのか理解できて、別の状況でも再現できるようになればマーケッター個人としての幸せに繋がるはずです。「マーケティングに関わる人のためのプラットフォームになる」というのは、そういうことなんじゃないかなと思っています。

― クライアント自身が仮説検証のサイクルを回せるようにするために、Kaizen Platformさんはどのようにサポートしているのでしょう。

カスタマーサクセス部隊が、解決したい課題はそもそも何なのかというところから一緒に考えて伴走します。ビジネスモデルやサービスデザイン、KPIを再整理しながら、課題を一緒に洗い出して、課題に優先順位をつけていきます。この一連の作業の結果をオリエンテーションシートに落として、クラウドソースするクリエイターが確認できる状態にします。

この時点で僕らのサービスに対する満足感を感じてもらえることが結構多いんです。日常の運用業務に忙殺される中で忘れていたことを改めて一緒に棚卸しして整理することで、これまでよりも正確に現状を捉えられている感覚を持つことができる。課題のマッピングもできて、事業上の問題を構造的に理解できる状態になります。

そして、実際にA/Bテストを実行した後にカスタマーサクセスチームの担当者が訪問して、クライアントと一緒に結果を分析します。このサイクルを一緒に回すと勘所がわかってくるんですよね。お客さん自身でPDCAサイクルを回せるようになると、それをベースにして色々な施策を自ら試し始めるんですよ。これがKaizen Platformの価値はなんだと認識しています。

実は、顧客満足度と改善度合いの相関は決定的という程には強く無いんです。自分たちで改善サイクルを回すことができるようになったお客さんの場合、仮に10パーセントしか改善してなくても契約を継続してくれます。一方で代理店まかせにしているクライアントの場合、何倍もコンバージョンが改善していても契約が継続しないこともあります。

高校時代に始めたWeb開発の仕事でプロダクトの世界へ

― これまでのキャリアについて教えて下さい。

ガイアックスGREEを経てKaizen Platformに入りました。

高校生の時に独学でHTMLやPHPを覚えて、個人事業主としてWeb制作の仕事をしていました。最初の仕事は父親の紹介でしたが、それ以降は顧客からの紹介で仕事が広がっていきました。15年ぐらい前のことで、Webを使ってどうビジネスをするかという定石が全然無かった時代です。

オープンソースCMSをベースにカスタマイズしてWebの在庫管理システムを作り、中古車販売の会社に卸すといった仕事をしていました。

― 高校生の時に始めたWeb開発の仕事が、プロダクトマネジメントに関わるきっかけになっているのでしょうか?

今になって振り返ればそうですね。ただ当時は動機がすごく不純で、普通にバイトするよりも断然お金も良いし、自分ができることがお金に変わるっていうことが単純に面白かったんですよね。

コンテンツをWebに掲載するために、同じようなHTMLを何度も書くのも馬鹿馬鹿しい。どうやったらコンテンツの数を効率的に増やせるか色々考えた末に、今で言うCMSのようなシステムを作ったんです。

これをどういう業態で使ってもらえるか考えました。多品種で流通量も多い業種で求められるような大規模システムは作れない。それなら小売りの中でも流通量が限られていて単価が高い商材を扱っているところがいいだろう、ということで、フェラーリランボルギーニの個人仲介売買をやってる業者に、在庫管理システムとして売りに行ったんですよ。そしたらめちゃくちゃ受けました。

今考えるとプロダクトのProduct Market Fitのようなことをやっていたんですね。ユーザーインタビューやマーケットリサーチのようなことをやりながら、どんなシステムが売れるか考えていました。ビジネスや新規プロダクトの開発がどういうワークフローで進むのか一通り体験できたので、良い経験をしたんじゃないかと思っています。

プロダクトマネジメントのようなことを最初に考え始めたのはその頃ですね。何が市場で望まれていてどうやったら顧客に価値提供できるのか、どれくらい対価を払ってくれて継続利用してもらえるのか、といったことを考えるようになりました。

― その後、個人事業主やめて就職されたということでしょうか。

大学に入学したものの、Web開発の仕事が順調だったので辞めてしまったんです。そのときに「面白いベンチャーがあるよ」と友人に誘われて、自分の仕事を続けながら業務委託として手伝うことになったのが当時まだベンチャーだったガイアックスでした。

プロダクトマネジメントというよりもプロダクトマーケティング的な仕事で、どういうものをどうやれば売れるのか、といったコンサルティングをしていました。その事業が順調に成長して、自分が作った仕事を引き受ける形で社員になりました。

ガイアックスが上場したあとに退職して、しばらくまたWebの分野でコンサルティングなどの仕事を一人でやった後に、当時まだ100人ぐらいだったGREEに入りました。

GREEではソーシャルゲーム開発のプロダクトマネージメントや、横断的にプロダクトを分析をするBIチームを作って戦略立案を支援するといった仕事をしました。その後、海外戦略チームを立ち上げて担当役員とアメリカの子会社をつくり、しばらくその会社のプロダクトマネジメント部門のディレクターをやっていました。

GREEでのミッションが終わり、次は起業しようと思っていたタイミングで須藤と知り合ってKaizen Platformに入社しました。

プロダクトマネジメントの重要性を認識したGREEでの経験

― 自覚的にプロダクトマネジメントをするようになったのはいつごろでしょう?

GREEに入ってしばらくしてからですね。最初の頃は本当に若かったんで、プロダクトで世の中にどうインパクトを与えるかなんて考えたことが無かったんですよ。インターネットでお金が稼げるということを純粋に楽しんでいましたね。

GREEに入社した際には、内製ゲームの担当になりました。GREEではプロダクトマネージャーが「Webディレクター」という肩書で呼ばれていて、ロードマップを作ったり事業計画やマーケティング戦略を作ったりとプロダクトマネジメントに相当することをやっていました。

その後、国際展開戦略の担当になってアメリカに行くのですが、国内での肩書と同じように「Webディレクター」という役職を名刺に書きました。そうしたらアメリカではDirectorは取締役とか重役という意味なので、会う人にやたらと経営に関するハイコンテキストな話をされるんですよ。そんな中、たまたまそのときに日本人でGoogleTwitterプロダクトマネジメントをやっている人たちに会って、自分の役割はディレクターではなく「プロダクトマネージャー」と名乗るのが正しいと教えられました。

当時は向こうでもまだプロダクトマネジメントは一般的ではなかったんですが、「『プロジェクトマネジメント』と『プロダクトマーケティング』があって、両方やるのが『プロダクトマネージャー』だ。」といった話を聞いて、「ああ、なるほど自分の仕事はプロダクトマメジメントだったのか」と理解しました。帰国した際に、GREEにもプロダクトマネージャーという職責を作るべきだと提案しました。

アメリカでは具体的にどのような経験をされたのでしょう。

当時GREEは影響力が大きかったので、GoogleFacebookにいたような人たちが沢山集まったんです。めちゃくちゃ優秀だし、キャリアもあるし、MBAや大学でマーケティングやデジタルインダストリーや経営を学んできた人たちが多いんですよね。彼らが部下として入ってくるんですよ。

これは全然マネージできない、日本のいた時と同じやり方では通用しないと思って、とりあえず全員と毎日1on1で話すようにしたんです。そうしたら彼らからすごく色々な質問をされました。「GREEはどういうマーケットポジショニングでいくのか?」とか、「なにが価値なのか?」とか、面接の時にするような表面的な話じゃなくて、ディスカッションが始まるんですよね。

「お金があるからゲームを出したい」ではなくて、なぜやる価値があるのか明確でないとシリコンバレーでは響かない。「GREEのミッションやビジョンは何で、そこに向かうための戦略や目標は何か」という、いわゆるVMSO(Vision/Mission/Strategy/Objective)を示す必要があります。「お前にはビジョンが全然感じられない」と部下に言われて相当ショックでした。

なりたい姿や信じている価値があって、そこに行き着く道としてストラテジーがある。それをエグゼキューションするのが日々のプロダクトマネジメントなのだ、ということを強く認識しました。

振り返ると、あの頃はマネジメントについて沢山学ぶことができたなと思います。最初は皆毎日夕方の4時とか5時になると帰ってしまってたんですよ。でもミッションやビジョンをちゃんと伝えてからは、価値を実現するまでやりきろうと頑張ってくれるようになりました。いくつもアイデアが出てエグゼキューションの手数も増えて、学習のサイクルが回り始めるのを目の当たりにしました。プロダクトマネジメントの重要性を実感しましたね。

― メンバーとの対話のなかでプロダクトマネジメントを学んだということでしょうか。それとも、本を読んだり、誰かに聞く機会があったのですか?

当時はシリコンバレーでもプロダクトマネジメントはまだそれほど体系化されてなかったと思います。GoogleはこうやってるけどFacebookは全然違うやり方やっている、Twitterの場合はこうだ、など、オフィスが近かったのでカジュアルに情報交換してました。他社がどうやっているのかという実例をよく見ていました。

投資家や現地にいる有名なプロダクトマネージャーと話す機会もたくさんありました。たとえば日本人だと、GoogleからTwitterに行かれてその後現地で起業された上田学さんや、Ingressを作り、今はアジア統括本部長をやられている川島さんから、「こういう苦労がある」「こういう時はこう」といった話を伺うことができて、自分の解釈を日々の業務に持ち帰り試してみて、自分なりのやり方を作っていきました。

後編に続く(5月27日公開予定)

プロダクトマネージャーに訊く #3:Smarby矢本さん

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― 簡単に自己紹介をお願いします。

smarbyのプロダクトマネージャーの矢本です。smarbyはブランド子供服の日替わりセールアプリです。2014年に4人でスタートしたのですが、現在はパートタイムを含めて30人ほどの会社になりました。

Yamotty Blogというブログでプロダクトマネージャーの雑記を書いています。

「衝動買い」というスマートフォンに最適化したEC体験を作りたい

― smarbyについて教えて下さい。

smarbyでは0歳の生まれたての新生児から小学校高学年ぐらいまで子供服を、割引価格で購入できます。フラッシュセールの要素があって、毎日新しい商品が掲載されますが一週間しか購入できません。スマホをさっと出してぱっと見て「あ、かわいい」と思ったら購入する、という衝動買い体験ができるサービスです。

ZOZOTOWNのような一般のアパレルECサイトは、ブランド、サイズ、カラーといったディレクトリ階層を辿って買い物をするサイトが多いんですが、僕らはユーザーが選択できる余地をできるだけ減らしています。smarbyは限られた上質な選択肢の中から選んでもらう、というコンセプトのサービスなんです。

スマートフォンで人気のC2C型コマースアプリでは、購入せずにザッピングしているだけのユーザーでも毎日数十分という時間を「見る」ことに費やしているそうです。購入するユーザーや出品するユーザーはさらに数時間という単位でアプリを見て、購入したり出品したりして楽しんでいます。これはすごいなと思うんですけど僕らはその真逆を行きたい。僕らのサービスのターゲットである「ママ」には特に時間が無いからです。

smarbyを一度使ったユーザーは、毎日継続的にサービスを使ってくれるユーザーが多いのですが、滞在時間は数分程度です。新しく出た商品をばーっとみて、短い時間で賢く検討するユーザーがすごく多いんですね。購入するユーザーでも20~30分程度しかかけません。ママという属性に最もフィットしたサービスを模索する結果が現れていると思います。またこれはスマホECらしい、新しいユーザー体験なんじゃないかと思っています。

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― なぜそうしたサービスを提供しようと思ったのでしょう?

子供ができても男性の生活って大きく変わらないですよね。お腹も傷めないし、仕事も続けられる。でも女性は自身の身体にも大きな変化を伴い、また出産後もまとまった時間を確保しずらくなり生活が分断的にになっていく。そうした中で、「課題解決型」の病児保育や家事代行などの育児をする女性の課題を解決するサービスは数多く出てきています。

一方で、「子育ては楽しいものだ」というブライトサイドを大きくするようなサービスについては、まだ満足できるようなものが少ないと思っています。

自分の子供に可愛い服を着せて写真を取るって誰でもやりますよね。撮ってる時も笑顔になってるし、後で写真を見た時も笑顔になる。服を選ぶ時も、服を着せるときも楽しい。育児をする女性にとって楽しいサービスは何かと考えた時に、この体験を原点として活かせるようなサービスを作りたいと思ったんです。

また、サービスの検討当時にシアトル発のzulilyという、子供服やママ向けのアパレル・雑貨カテゴリのECサイトがすごいスピードで伸びていました。日本の子供服市場がそれなりに大きいですし、こうしたサービスが日本でも必要じゃないかという代表の遠藤の思いがあってsmarbyが始まりました。

― リリース時の反応はどうでしたか?

ユーザー登録して商品を選んで決済ができる、といった最小限の機能を備えたMVP(Minimum Viable Product)を作って2014年の11月にリリースしたんですが、初日の売上が想定していた金額の100分の1程度でした。運営サイドに誰もECサイトの経験がなかったこともあって、こんなに難しいものかと思い知りました。

3000人の先行ユーザーにクーポンを配布していて、リリース時にメールを送ってそれなりにアクセスがあったんですが、ほとんど購入までには至りませんでした。欲しい商品がなくて離れていったのか、そもそもアプリの使い勝手が悪くて購入プロセスの途中で離脱したのか、とにかくファネルの全ての箇所に問題があったのだと思います。リリース後はそれらを一個一個、地道にクリアしていく毎日でした。

― ターニングポイントはどこだったのでしょう?

リリースしてから一ヶ月半ほどたった、2015年1月の福袋企画がターニングポイントになりました。当時のMD(商材)を冷静に見なおして分析すると、「これは欲しくならないよね」、と気付きました。

商材を改めて厳選し、それまで委託中心だった商材写真の撮影を自社ではじめて撮影しました。そして、この福袋はなぜ買う価値が有るのかをSmarby Pressという自社メディアを使ってユーザーにきちんと伝えました。コンテンツとチャネルをきちんと作りなおしたんですね。

今考えると当たり前すぎるんですが、いい商材を集めて魅力的に見せるという行為をきちんとやったらちゃんと売れた。それがチームにとってすごく良い原体験になりました。

ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)と言いますが、VMDのクオリティに拘ることで購買に繋がるサービスになっていきました。

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Googleのプロダクトマネージャーとの活動経験を活かして

― Smarbyにジョインしてプロダクトマネージャーになるまでの経緯を教えて下さい。

新卒で総合商社に入社して、エネルギーの権益獲得とマネジメントをしていました。カザフスタンの真ん中にあるウラン鉱山に穴を開けて、硫酸を流して溶けたウランやレアメタルを抽出して売るという事業会社の経営です。カザフスタンに1週間出張して帰ってくる、といった生活をしていました。

その後総合商社を辞めて、震災復興支援のNPOであるRCFに転身しました。震災当時、僕は東北大学の大学院にいて、その時に仙台で被災をしているんです。その時に何もできなかった/何かをできるスキルが無かったことがすごく精神的に尾を引いていて、復興支援にきちんとかかわらないと先に進めないと気づいたんです。

RCFではGoogleから資金調達をして、Googleの人たちと一緒にイノベーション東北というプロジェクトを立ち上げました。イノベーション東北は、東北の事業者の課題を抽出して、日本中のスキルをもったボランティア、プロボノとマッチングする、というサービスです。僕はそこでプロジェクトのリーダーというか、マネジメントをやっていました。

イノベーション東北が一区切りついた頃に、Smarby代表の遠藤からママ向けのサービスをやりたいという話を聞きました。ちょうど子供ができたタイミングだったこともあって、いいねと共感してジョインすることにしました。

― SmarbyにジョインしてからすぐにPMとして活躍されたのでしょうか?

いえ、僕はコードが書けるわけでもなく、スペシャリティがほとんどない状態でSmarbyに来ているので、まずはじめに柱になるものを何か一本建てようと思い、マーケティングを担当することにしました。プロトタイプやプレゼン資料をもって東京中の保育園や託児所など、ママが沢山いそうなコミュニティを回って事前登録を集めたり、インフルエンサーとなって周囲に広げてくれそうな人に会いに行ったり、サービスの認知を獲得するための仕事を泥臭くやりました。

サービスをリリースしてからは、Webマーケティングを一つ一つ学んで、サービス成長させるためにペイドとアンペイドのマーケティングや、同時にコンテンツサイドであるMD(商材の仕入れやVMD)全体を管轄していました。

自分は事業上で一番ボトルネックになっているところを受け持つという役割、というスタンスで仕事をしています。。
ただ、ビジネス的な検証だけでなく、プロダクトの使い心地やそれに紐づくアプリやWebでは当たり前のような中間指標を伸ば差ないと売上は伸びてこないよね、という状態になり、僕がプロダクトに関わることになりました。2015年10月のことなので、PM歴はちょうど半年ぐらいですね。

― キャッチアップの早さに驚いています。

イノベーション東北でGoogleの人たちとやっていたプロジェクトの経験が、今の仕事に生きています。

メンバーが豪華で、USでGoogle Mapマップを担当しているプロダクトマネージャーとか、日本でGoogle+を担当しているマーケティングマネージャーとか、Google Adwardsの部長とか、そうしたメンバーが20%ルールを使って、イノベーション東北に参加していました。特にGoogle Mapのプロダクトマネージャーだった河合さんという方の下ですごく学ばせてもらいました。

その時僕はプロダクトを作っていたわけではないし、マーケティングをしていたわけでもないんです。東北の事業者のニーズを集めて、ニーズを満たすためには何がボトルネックになっているか見極めてそれを解決する、という行為を繰り返していたわけですが、プロダクト開発って結局そうした課題解決の積み重ねですよね。

― PMとして短期間でスキルアップするためのコツはありますか?

僕はかたっぱしから文献を読んで、あの人はこうやって上手く行ったみたいなケースを集めました。また、できることが少ない際には、ツールを使い込んでで自分を拡張することが一番の近道だと思っています。誰彼はこのツールは良いと言ってる、と聞いたら自分でも使ってみます。最近使ってみて良かったのが、guiflowというツールです。Markdownで書くと遷移図が生成されるという、メンテもすごく楽な便利なツールがあって、僕も手掛ける仕様書がグレードアップしました。

マーケティングだけでなくプロダクトを見ることになって、エンジニアとのコミュニケーションはスムーズに進みましたか?

まだエンジニアチームも小さいので意思決定や議論はスムーズですね。P/Lからプロダクト、マーケティングまでほぼ全権を委任してもらっているので、僕がすべて判断できます。僕とエンジニアで密にコミュニケーションして開発しています。

エンジニア側のリーダーが、良いサービスを作るために技術をどう使うか、という考え方なのでお互いに歩み寄って議論できてやりやすいですね。僕は彼をすごく信頼しています。

― 具体的にはどのようにプロダクト開発を進めていますか?

Qiita:Teamに仕様書を書いて、GitHubにイシューをあげて開発側とコミュニケーションを取りながら進めています。僕からは機能の優先度、whyやwhat、いつまでにリリースしたいといった情報を伝え、その上でエンジニアに内部仕様と開発スケジュールを決めてもらいながら作っています。

細かいところで気をつけてるのは僕がボトルネックにならないということです。レビューやレスは早く、できるだけ齟齬のない言葉で行う。エンジニアがエンジニアリングに集中できるようにしています。

― エンジニアチームとはオンラインでのやりとりが多いんですか?

そうですね、あまりミーティングはしません。うちのエンジニアは「読んどきゃ済む」が好きなんですよ。なので仕様書をちゃんと書きます。サービスとしてはこういうことをやりたい、この機能を追加するとサービスはどう良くなるのか、なぜこの機能が重要なのかを仕様書としてシンプルに書いておきます。ちょっと複雑な仕様は、リモートのメンバーも多いのでSlack Callで5分程度話して説明します。

一度踏み込みすぎて、データモデルの案まで仕様書に書いたことがあるんですよ。そういうのは嫌がられますね。「それはこっち考えるから、お前はサービス側に集中しろ」と言われました。エンジニアとのコミュニケーションにおけるアンチパターンですね。

いかに作らずに仮説を検証するかがPMとしての腕の見せ所

プロダクトマネジメントをする上で、大事にしている考え方はありますか?

今だと「できるだけ作らない」ことにはこだわっています。プロダクトを世に出すっていうのは、なんらかのアイデアや仮説を検証するという行為と等しいと思っています。仮説を検証する行為ってプロダクトを出す以外にも無数にあります。なので、僕らにとって一番貴重なエンジニアのリソースを使わずに、作らないで仮説を検証するようにしています。

イデアの量に対して作れる量が上回ることはありません。「いかに作るものを厳選するか」ということがプロダクトマネージャーの介在価値だと思っています。

― 具体的に作らずに検証した例を教えて下さい。

マーケティングに力を入れたので、「集客」にはある程度は成功したんですね。継続利用ユーザーも増えていって、そこからいかに購入まで体験を楽しんでもらえるか、という「接客」が次の問題になりました。そこで、チャットというユーザーが親しんでるUIで購入体験まで完了できるようにしたら、楽しいんじゃない、という仮説をたてました。
ただ、チャット機能はサービスモデルの設計も開発コストも高く、サーバーのパフォーマンスとしてもハードなので、いきなり実装する判断はしづらい。

要はチャットUIで商品をお勧めされたら購入に至るかもしれない、という仮説を検証できればいいわけです。そこでLINE@の自社アカウントで、欲しいものがあったら聞いてください、と問いかけてみました。そうすると返事が返ってきて、僕が手作業でおすすめ商品を投稿すると、かなりの高頻度でその商品が購入されたんですね。このアイデアは実現する価値があるから作ろう、という判断ができました。

― 新しい仮説を立てるためにどのようなことをしていますか?

プロダクトマネージャーはデータを水を飲むように見てなきゃいけないと思っています。まずはデータで自社のサービスのどこに穴があるのか把握しつつ、逆にどこを伸ばしたいかを考えます。

smarbyの「衝動買い」というコンセプトから紐解けば、どの指標を伸ばすべきか自ずと明らかになります。穴だけ見つけて解決するだけだと、穴を埋めた後どうすべきかわからなくなります。そうではなく、目指したい世界を定義して、その実現された姿を数字に落として伸ばしていきます。

もう一つは色々なサービスをさわりまくって、ユーザーが普段使っていてストレスなく使えるものは何なのか常にみています。smarbyはアプリに注力しているので、アプリで買い物するとか、写真を沢山みるっていう行為は、どういうものがストレスがなくて気持ちが良いのか、常に研究しています。

― ユーザーヒアリングからヒントを得ることはありますか?

社内のバイヤーがみんなママなのですぐに意見を聞けるという環境のせいもあって、ユーザーヒアリングは全然やらないんです。

Reproというサービスを使ってユーザーの動きを観察しています。ヒアリングより示唆が得られることが多いですね。PMとしての武器が一つ増える感じで、僕はかなり重宝しています。

プロダクトマネージャーに必要なのはコミットメント

― PMを志す人におすすめの本はありますか?

PMになりたい人にはまず覚悟が必要かなと。僕がPMの一番大変だと思う所は、自分をアップデートし続けなきゃいけない所です。PMは自分の仕事の範囲を定義せずに、空いたボールは全部拾わないといけない。自分でできることより、できないことが沢山あるなかで、自分に甘える気持ちを無視して高いコミットメントを持ち続けないと良いプロダクトは作れません。

そんな中ですごく良いメッセージが書かれているのが、岡本太郎の「自分の中に毒を持て」という本です。 

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間"を捨てられるか (青春文庫)

 

 この本に「道で己に逢えば、己を殺せ」という名言が出てきます。「己の道を邪魔するのは己自身だから、自分を殺せっていう」という意味です。資金が尽きたら会社は死ぬし、自分たちの信用やお客さんなど築いてきたものがすべて崩れます。だからこのサービスを成功させないと我々に未来はない。そういう覚悟を持って、甘えを捨てろという自分を奮いたたせるメッセージを受け取っています。

― 最後に読者に伝えたいことはありますか?

PMを絶賛募集しています!

僕がプロダクトを育てることに関心を持つようになったのは、Googleの人たちの仕事の進め方を見て、プロダクトを作る人ってかっこいいなと思ったことがきっかけです。その時の経験からPMの仕事の仕方は徒弟制度みたいな形で受け継いでいくのが効率的なんじゃないかと思っています。僕も自分が得たものを全て受け渡していきたいと思っていますし、会社としてはPMが二人になって見れるプロダクトが増えます。

興味のある方はyamoto[at]smarby.jpまで連絡をください。Wantedly経由でも結構です。 

プロダクトを成功させたいという意思があって、自分が変わることを恐れない人を待っています。もちろんエンジニアやデザイナーなど全方位で募集中です!

― ありがとうございました。

消費者インサイトとは

インサイトとは?

インサイトという言葉の辞書的な意味は、「洞察」「物事の本質を直観的につかむこと」などであるが、消費者インサイトという用語は一般に、「消費者自身も気づいていない隠れた動機やホンネ」というような意味合いで使われる。
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

簡単に言えば「消費者のホンネ」のことです。ただ、ホンネのすべてがインサイトかというと、そうではありません。ブランディングマーケティング活動のアクションにつながるものに限られます。そうでないものは、いくら消費者のホンネであってもインサイトではありません。消費者自身が気づいていないような深層心理の中で、マーケティング活動に活用できる「心のホットボタン」がインサイトです。
「インサイト」を知ればマーケティングも変わる - perigee

なぜインサイトが重要か

出せば売れる時代ではなくなった

インサイトが注目された大きな背景としては、商品を出せば売れる時代ではなくなったことがあります。一昔前は、それなりのクオリティーの商品を作って広告し、店頭に並べれば売れましたが、最近は、そもそもモノが欲しいという気持ち自体が消費者の中で減ってきています。人の心をつかまないと、振り向いてもらえない時代になってきているんですね。
「インサイト」を知ればマーケティングも変わる - perigee

マーケットにおいて、インサイトという言葉が生まれたのは、消費者がモノをあまり買わなくなってきたことが背景にあります。どれだけ良い商品を出したとしても、その商品自体にそもそも興味がなかったり、商品があってもすでに従来の品の物でも満足してしまったりしているため、商品が今まで通り売れなくなってきたのです。
マーケティング用語として知っておきたい「インサイト」の基礎知識|U-NOTE [ユーノート]

従来の商品を改良したり、顧客の要望を聞いてものを改善していれば売り上げが上がらなくなってしまって、どのようにすれば、さらなる販売の拡大ができるのかということを考えたときに、消費者の隠れた本音や言葉に表れてこない視点を探るために「インサイト」という言葉が出てきたのです。
マーケティング用語として知っておきたい「インサイト」の基礎知識|U-NOTE [ユーノート]

スペックや価格だけでは購買意欲を刺激できない

しかし、消費生活はより複雑になりました。市場は飽和し、商品機能にも差がなくなり、クオリティや価格だけでは消費者の購買意欲を刺激することが難しくなってきています。新市場を創るような革新的な商品やマーケティング戦略を生みだすためには、「消費者インサイト」を読み解き、消費者自身も気づいていない「潜在的な欲求」を理解することが重要です。
消費者の「欲しい」と「買う」には大きな隔たりがある | 売れ続ける仕組みづくり講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

最近は若い人たちが車に乗らなくなってきていますが、そういう人たちに、他社より高スペックだと言っても意味がありません。車自体を欲しいと思わせることが大事です。そのためには、彼らが普段の生活でどんなことをしたいのか。それに対して車という商品がどういう役割を果たすのかを探って商品を作らないといけない。そうしないとメッセージも伝わらないということなんです。それが、今、さまざまなカテゴリーで起きているんですね。
「インサイト」を知ればマーケティングも変わる - perigee

消費者は自分自身の欲求や行動を理解していない

かつては「顧客のことは顧客に聞け」=「企業の勝手な思いでシーズ志向の商品を作っても売れない」と言われました。しかし、よく考えてみれば、私たち消費者は、すべての行動の理由を十分理解して行っているわけではありません。その結果、つい衝動買いしてしまったり、日常はほしいとも不便とも思っていなかったものを店頭で見つけて、「これがほしかったんだよね」と満足したりと、意識していない「潜在ニーズ」に気づかされることが時々あります。これこそが消費者インサイトです。顧客自身も気づいていない思いをくみ取り、商品・サービスという形にして提供して差し上げるというマーケティング(商品企画含む)に他なりません。
中央支部: 専門家コラム「顧客ニーズとインサイト」(2014年11月)

アメリカで、それに関するおもしろい実験があります。スーパーマーケットで大きいカートいっぱいにまとめ買いをするのがアメリカでは当たり前ですが、買い物客がレジに並ぶ前に、調査員が呼び止めるんですね。そこで調査員が聞く話というのは実はどうでもよくて、もう1人の調査員が、例えばその買い物客が「エビアン」を買っていたら、それをこっそり「ボルヴィック」にすり替えるのです。そして、レジで精算が済んで出てきたところにもう1人の調査員がいて、「あなたはボルヴィックを買いましたが、その理由は何ですか」と聞くのです。すると7、8割の人が、「これ、おいしいんだよ」「美容にいいから」「家内が好きだから」と、ボルヴィックを買った理由を当然のように答えたというのです。
「インサイト」を知ればマーケティングも変わる - perigee

インサイトの実例

プレミアムアイスクリーム

価格としてはデパ地下で売られているスイーツと変わらないのに
プレミアム・アイスクリームは
 □ 値段が高い
 □ おやつ
 □ 子供と一緒の時だけ食べるもの
と消費者に捉えられていました。
そこで桶谷先生が消費者調査を進めてたどり着いたインサイトは 「アイスって子供の食べ物だよね…」だったのです。
この本音ゆえに、上述のプレミアム・アイスクリームは
 □ 値段が高い
 □ おやつ
 □ 子供と一緒の時だけ食べるもの
という扱いを受けていたのです。
そこで桶谷先生はこのプレミアム・アイスクリームを「大人のアイスクリーム」である
と理解してもらうためのマーケティングを実施しました。
具体的にはTVCMを始めとした広告において外国人を起用して非常に大人っぽい演出を施したのです。
結果としてプレミアム・アイスクリームは
 □ 高級
 □ 一日の締めくくりに食べる自分へのご褒美
 □ 本物のデザート
という認知を得ることが出来ました。
このような商品に関するインサイトは「カテゴリーインサイト」と呼ばれています。
インサイト実践講座|プレジデントアカデミートピックセミナー(東京開催) | 経営者の継続的な成功のために開発された、会員制の経営改革プログラムです。|PRESIDENT ACADEMY


もう一つのインサイトは、「ヒューマンインサイト」と呼ばれるものです。
例えば「20代の女性」にプレミアム・アイスクリームをもっと買ってもらうためにヒューマンインサイトを探っていった時、桶谷先生は20代の女性が「ゆっくりとした時間を持つことに幸せを感じている」というインサイトに達しました。
そこで桶谷先生は、女性が贅沢な程にゆっくりとした時間を 過ごしているイメージを醸成するTVCMで、プレミアムなイメージを保ちつつも 「今どきのブランド感」を与えることに成功したのです。
インサイト実践講座|プレジデントアカデミートピックセミナー(東京開催) | 経営者の継続的な成功のために開発された、会員制の経営改革プログラムです。|PRESIDENT ACADEMY

なぜスーパーマーケットで2個しか買わないのか

スーパー・マーケットなどと異なり、コンビニの場合は一度にたくさんの商品を買う人はそれほど多くない。来店客の多くが1個か2個の商品を買って店を出て行く。
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

このときに筆者が得たインサイトは、「コンビニではカゴを持たずに、片手または両手で商品をレジに持っていく買物客が多い。そのため、2個までは無理なく持てるが、3個以上になると持ちにくくなる。」というものだった
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

カゴを利用していない買物客が、買物途中でカゴを使いたいと思っても、わざわざ入口のところまで取りに行く人は少ないと思われる。一方で、店舗内の数カ所にカゴが置かれていれば、買物途中で両手がふさがってしまった人も容易にカゴを取ることができる。
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

入れ歯洗浄剤

「入れ歯洗浄剤」の事例でお話しましょう。ターゲットに対して、「この商品はいかにニオイを落すか」という情報を伝えると、購入意向は高まるのですが、実際に購入には至りませんでした。そこで、「入れ歯洗浄のケアは、みんながやっていることです」という情報を伝えると、購入するようになったのです。「みんなと同じケアをやっていないと恥ずかしい」というインサイト、ここが態度変容のポイントでした。
消費者の「欲しい」と「買う」には大きな隔たりがある | 売れ続ける仕組みづくり講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

瞬足

アキレスの運動靴「瞬足」は、運動場や体育館を走る際は常に左回りであるという条件をいかし、左回りに特化したデザインを取り入れ大ヒットを記録した。「運動会でコーナーを転ばずに上手く走りたい」という子供たち自身でさえ言葉にできないニーズをくみ取り商品化につなげたものである。
MBA経営辞書「顧客インサイト」 | GLOBIS 知見録 - 学ぶ

ルイ・ヴィトン

ルイ・ヴィトンインサイトの一つは「旅に出たい」という欲望だ。下の映像は、貴族が踊っている光景がメインパートだが、最初と最後にしっかりと「旅」の風景が描かれている。旅行鞄としてスタートしたブランドの、揺るぎないターゲティングである。

第二に「伝統を大切にしたい」というインサイトだ。上の写真には「親子3代ボクサーである」というストーリーが隠されているのだが、このことが、消費者の「伝統を大切にしたい」という"心のボタン"を刺激している。
「インサイト」とは何か? ~ルイ・ヴィトンの広告に隠された2つのインサイト~ | 坂井直樹「デザインのたくらみ」 | 現代ビジネス [講談社]

インサイトの調査方法

行動を観察する

直観的な行動や心理を一般的な調査手法によって明らかにすることは非常に難しい。直観的な行動について、「なぜこの商品を買ったのか」「なぜこの売場に立寄ったのか」などと消費者に質問しても、「何となく」とか「いつも使っているから」としか回答できないことも多い。
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

このような場合に消費者の行動や心理がなぜ生じたのかを把握するためには、消費者自身にたずねるのではなく、観測された結果からその要因を洞察することが必要となる。
「なぜ」を掘り下げると見えてくる消費者インサイトの活用法 消費者行動から考えるマーケティング【第2回】 | 早稲田大学ビジネススクール経営講座|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー

アンケートを工夫する

「1ヵ月に2000円を上限に、サプリメントと健康食品を買うことができるとすれば」との仮定を提示したうえで、次の流れで質問をしていきました。

「(1)美肌(2)ダイエット(3)アンチエイジング(老化防止)(4)疲労回復(5)便秘解消――という5つの分野の中でどの商品を買いますか?」。

 この質問について、他の製品ジャンルとの相対値評価として回答をしてもらったところ、便秘解消という健康課題とそれを解決してくれる食物繊維という素材の魅力度は他の健康課題と比較して、決して高くないということがわかりました。
ユーザーのインサイト(=本音)をあぶり出せ|消費者のココロのスイッチを押すしかけ|ダイヤモンド・オンライン 

その後、我々は調査から出てきた「ファイバーデトックス」という新しい食物繊維の訴求メッセージをプロモートして、大きな成果を上げました。
ユーザーのインサイト(=本音)をあぶり出せ|消費者のココロのスイッチを押すしかけ|ダイヤモンド・オンライン 

対象に共感して一体化する

相手の置かれている生活環境への理解と、さらにダイブして得られる景色に深くダイブ=共感して、初めて理解できるいろいろな生活者行動実態とも言えるようなことでしょう。
これからのマーケターには、いろいろな相手にすぐダイブできるような共感力と、常にいろいろな相手の環境を理解するための情報を集めているというような心構えが必要になるんでしょうね。
マーケティングでいう「インサイト」とはいったい何か?意味は? | Mindbooster!!

仮面ライダーと、怪人のインサイトを考えて見ましょう。
あなたは仮面ライダーです。何が見えますか?世界はどのように見えますか?
そうです。世界は真っ赤にみえ、岩を砕く力、強靭な体が見えます。
そんな中、およそ普通には見えない「怪人」が向こうからくるわけです。真っ赤な世界で。
これは敵です。なので戦います。
では怪人からは?灰色の世界です。自分の手足をみるとかなり醜い変わった姿。
世の中すべてが灰色に見えます。人を恨みたくなります。
そんな中、カッコイイ仮面ライダーと出会います。向こうは襲い掛かってくる。
憎しみをこめて戦います。
どうでしょう?仮面ライダーと怪人にダイブした気分は?
この相手に「ダイブ」をしたときに得られる気持ちの動き、これがインサイトを得るということではないかと考えるわけです。
「相手になりきったときに初めて理解できる心の動き」=「インサイト」なのではないかと考えます。
マーケティングでいう「インサイト」とはいったい何か?意味は? | Mindbooster!!

その他、様々な調査方法

エスノグラフィ」「フォトダイアリー」「コラージュ・エクササイズ」「ワードカード刺激法」など手法はいろいろなものがすでに開発されてます。
「インサイト」を知ればマーケティングも変わる - perigee 

参考図書 

インサイト

インサイト

 
インサイト実践トレーニング

インサイト実践トレーニング

 

プロダクトマネジメントの起源と歴史

MindTheProductに米国のプロダクトマネジメントの起源と歴史が解説されている。

  1. P&Gのニール・マッケロイ(Neil H. McElroy)が1931年にブランドマネージャーの職務定義に関する800語のメモを書く。徹底的なフィールド調査と顧客との交流を推奨。セールスからプロダクト、広告宣伝までを統括するブランド・マネジメントの礎を築く。
  2. マッケロイが当時スタンフォードの学生だったHP創業者、ビル・ヒューレットとデビッド・パッカードに影響を与える。(HPは1939年創業)
  3. HPは大野耐一や豊田英二が戦後に築いたトヨタ生産方式(Toyota Production System)に影響を受けて、カイゼンや現地現物などの考え方を取り込む。
  4. HPの卒業生たちは、顧客中心主義やブランド単位の管理、リーン生産方式などの考え方を急成長していたシリコンバレーに広める。
  5. トヨタ生産方式アジャイル開発やスクラムにも影響を与える。アジャイルによってプロダクトマネージャーは膨大な仕様書を書く労力から開放され、より顧客と向き合うことができるようになる。

だいたいこんな流れのようだ。マッケロイのメモをざっと訳すと次のようになる。

  • 出荷される商品を十分理解せよ
  • 成功事例を横展開せよ
  • 過去の広告やプロモーション施策の歴史を調べよ
  • フィールド調査してディーラーや顧客を知れ
  • 課題を特定して解決案を考えるだけでなく費用対効果を明確にせよ
  • 販売計画が成功するよう最初から最後までセールス担当をサポートせよ
  • 施策の効果を計測せよ
  • すべての顧客接点に対して全責任を持て
  • すべての広告費用に全責任を持て
  • 地区マネージャーを訪問してその地区のプロモーションの失敗について何度でも議論せよ

現代のプロダクトマネージャーの役割に通じるものがあるが、ソフトウェアやインターネットサービスと比べると、P&Gのような消費財メーカーの製品は開発期間が長期に渡るため、ブランドマネージャーのプロダクトへの関わりはパッケージングなど限定的なものだったようだ。

下記の記事ではP&Gの元ブランド担当であり1981年にIntuitを創業者したスコット・クックをプロダクトマネジメントの起源の一つとしている。いずれにしてもP&Gのマッケロイの影響が大きい。

The Origins of Product Management (part 2) – On Product Management

Intuitは個人向けの会計ソフトの実際の利用状況を知るために、"Follow me home"というプログラムを展開して顧客を訪問し、エスノグラフィー的観察手法で顧客理解につとめたらしい。

 

トヨタの影響力の大きさに日本人として驚くばかりだが、トヨタの利益は多くの企業に影響を与えた生産方式(Toyota Production System:TPS)の方ではなく、製品開発 (Toyota Product Development:TPD)によって生み出されているとのことだ。