小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

大人にも読んで欲しい「はじめてであう すうがくの絵本」

子どもが読んでいた絵本にとても感銘をうけたので紹介する。

はじめてであう すうがくの絵本 (1)

はじめてであう すうがくの絵本 (1)

 

本書は足し算や掛け算をの正確さや早さを訓練するような算数ドリルとは異なり、数学的な考え方を身につけることを目的にしている。大人向けのあとがきで、著者は次のように書いている。

もし数や図形を教えるだけなら、ほかにもよい算数の本はたくさんあります。
算数だけでなく、他の学問全般に共通する考え方を教え、発見や想像の喜びを分かちあい、たまには迷路にさそいこんでくやしがらせる、そんなおもしろい本はできないものか、と考えたのです。

この「学問全般に共通する考え方」は社会人に求められる問題解決力の向上にもつながるものだ。機会があったらぜひ読んでみて欲しい。

本書は「なかまはずれ」「ふしぎなのり」「じゅんばん」「せいくらべ」の4つのパートに分かれている。内容を少しだけ紹介しよう。

「なかまはずれ」を探す。

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遠くに住んでいる人と「せいくらべ」ができるように、棒の高さで背を比べる。

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本書で学ぶ「考え方」には、最近個人的に興味を持っているComputational Thinking(CT)と共通するものを感じた。「なかまはずれ」はCTにおけるPattern Recognitionに繋がるし、「せいくらべ」はAbstractionだ。改めて考えるとCTの考え方の大半は、高校レベルの数学を学び様々な問題を解く過程で自然と身につくものかもしれない。ただAutomation(Algorythm)は数学を学ぶだけでは身につきにくい、CT固有の考え方と言えそうだ。

Algorithm Designを目的にして、必要なDecomposition、Pattern Recognition、Abstractionを行うのが数学的思考と計算論的思考(Computational Thinking)の違いだと考えるとわかりやすいかもしれない。

全3巻だったので、早速残り2巻を注文した。 

はじめてであう すうがくの絵本 (2)

はじめてであう すうがくの絵本 (2)

 
はじめてであう すうがくの絵本 (3)

はじめてであう すうがくの絵本 (3)

 

 

ランニング再開に向けて治療中

昨年の年始からランニングを始めて走ることが習慣としてすっかり定着していたのだが、この3ヶ月一度も走れていない。原因は右足の裏にできたウオノメだ。最初は「素足で歩くとちょっと違和感があるな」という程度だったのだが、放置しておいたら痛くてまともに歩けない程になってしまった。

皮膚科で診察を受けて硬質化した皮膚を削ってもらったが治らない。別の病院で皮膚を軟化させる薬を処方してもらったが効果なし。また別の病院では液体窒素で患部を焼く治療をしてもらったが改善する気配が全くなし。挙句の果てに「患部にダクトテープを貼る」という民間療法?をネットで見つけて試したがやっぱりダメ。そうこうしているうちに症状に悪化して、痛い足をかばって不自然な歩き方をした結果、腰痛と偏頭痛を併発。

困り果ててネットでさらに色々と調べた結果、レーザー治療でウオノメを切除してくれる医院を見つけた。まだ治療中だが、ようやくまともに歩くことができるようにり腰痛や偏頭痛が解消した。あと一ヶ月もすればランニングを再開できるだろう。

自由診療なので治療費は高い。麻酔をするのでレーザーでの患部の切除は痛くないが、麻酔そのものがすごく痛い。症状が進行していたため一度の治療では完治せず、1ヶ月ごとに再治療が必要な状況だ。とはいえ足を引きずらなくても歩けるようになり、腰痛も偏頭痛も解消したので本当に助かった。普通に歩けるって素晴らしい。

昨年の暮に医療情報のキュレーションメディアの問題が話題になったが、医療や健康に関する情報はそもそもネット上に参考になるものが少ないと思う。同じような症状で困っている人に向けて、自分が経験した問題と解決方法を一例として記しておく。

 

読書メモ: 教育者のための「計算論的思考」入門ガイド

先日発売したComputational Thinking(CT、計算論的思考)の入門書を早速購入。著書の一人は以前このブログでも紹介したキキ・プロッツマン氏。 

Computational Thinking and Coding for Every Student: The Teacher’s Getting-Started Guide

Computational Thinking and Coding for Every Student: The Teacher’s Getting-Started Guide

 
  • なぜCTが必要なのか
  • Computer Science(CS)との違いは何か
  • ExcelやWordの使い方を習うのはCTではない
  • CTの基本4要素、Decomposition、Pattern Recognition、Abstract、Automation(Algorithm)とは

などが平易に解説されている。うちの娘の小学校にもコンピュータークラスがあるのだが「パソコンの使い方」の域を出ていない。日本におけるCT普及のためにも日本語版をぜひ出して欲しい。

CTの4要素はエクササイズがいくつか用意されていて実際に子供に教える際に参考になりそう。ただ大人に教えようとするともう少し日常的な課題や実務につながるような例が欲しいところ。

CTとはいわばコンピュータを使って問題解決をするために必要な考え方。ソフトウエア領域でプロダクトマネジメントに関わる人にとってはシステム思考と合わせて必ず身につけるべき思考法だと思われる。

読書メモ:スノーピークのプロダクト開発とマネジメント

アウトドア・ブランドのスノーピーク、山井社長による著書。 

スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営

スノーピーク「好きなことだけ!」を仕事にする経営

 

  「私達は自らもユーザーであるという立場で考え、 お互いが感動できるモノやサービスを提供します」

これはスノーピークのミッション・ステートメントに含まれる一文だ。

社長自身が熱心なアウトドア愛好家であり、プロダクトの企画には社長である著者自身が全て目を通す。ユーザーとして使いたいと思わないプロダクトの企画は承認しない。
著者自身が本書中で尊敬する経営者としてスティーブ・ジョブズを上げているが、かつてのAppleと同様に社長自身が大プロダクトマネージャーとしてプロダクト開発の舵取りをするタイプの企業のようだ。

ユーザーから価格の高さと販売店での品揃えの悪さを指摘されたのをきっかけに、問屋経由から直接取引に変更して流通コストをカット。さらに品揃えやショップ体験の改善のため、全国に250店の正規代理店網を構築する。

スノーピークはユーザー同士のつながりの強いコミュニティブランドで、本書中では類似ブランドとしてハーレーダビッドソンがあげられている。高価格商品である、コミュニティブランドである、ショップ体験を重視する、ユーザーイベントを定期開催する、ファンによるクチコミが新規顧客を増やす、など色々とハーレーと共通するものを感じる。

本書を読んで、スノーピークのテントをバイクに積んでキャンプに行ってみたくなった。今年の夏に挑戦してみようかな。

読書メモ:Harley Davidson Japan(HDJ)のマネジメント

昨年、10数年ぶりにバイクに乗ったところ思いのほか楽しく、勢いで大型二輪の免許を取得してしまった。ドラマ「Beautiful Life」でTW200に乗るキムタクに感化されて普通二輪の免許したので、教習所は15年ぶり。以前乗っていたのが120kg程度のFTRだったこともあり、200kgを超える大型の重量になかなか慣れなくて苦労した。(ちなみに普通二輪免許を持っていれば、12回の実技教習/10万円程度で大型二輪の免許が取れる)

そんな経緯で大型バイクを色々と物色しているなかで、Harley-Davidsonの正規販売店を訪問した。店舗の雰囲気はこんな感じ。

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ガジェット好き向けに一言で説明すると、Apple Storeっぽい。バイク本体だけでなく、アパレルやグッズも販売していてすっごくオシャレ。

その場でハーレーを試乗。エンジン音と体に伝わる鼓動、軽くクラッチをつないだだけでずるずると前に引きずられるトルク感にぐっと心を鷲掴みにされた。実はハーレーは「革ジャンを来たアウトロー」のイメージが強くて、ファッション的にはDucati Scramblerに惹かれていたんだけど、販売店での経験ですっかり関心が移ってしまった。

興味を持った勢いで車体以外についても色々と調べてみたところ、Harley Davidson Japan(HDJ)のマネジメントがとても面白かったのでメモ。

日本におけるハーレーダビッドソンの状況
  • 751cc以上の二輪市場におけるハーレーのシェアは24.2%で首位(2002年当時)
  • モノを売るのではなくコトを売るライフスタイル・マーケティングを実践
  • 二輪市場が縮小するなかで(1982年に328万台→2002年には77万台と減少)、販売台数を伸ばす(1982年に1099台→2002年には10,869台と10倍に)
  • ハーレーオーナーの平均年齢は37歳を維持している。これはバイク保持者全体の平均年齢よりも10歳若い。若い層を新規顧客として獲得できており、ユーザーの高齢化が進んでいない
プロダクトについて
  • ハーレーは実用ではなくレジャー用途のバイク
  • オートバイを売るのではなく、ライフスタイルを売る
  • ハーレーのプロダクトコンセプトは「Look,Sound,Feel」であり、「走る、曲がる、止まる」ではない
  • ハーレーの耐用年数は50年以上。一生同じハーレーを乗り続けるオーナーもいる。買い替えではなくカスタマイズで売上を伸ばす必要がある。よって販売した後に顧客と関係を継続する必要がある。
  • HOG(ハーレー・オーナー・グループ)というオンライン/オフラインのユーザーコミュニティ
マーケティング戦略
  • HDJはマス広告を出稿しない。店舗とイベントを顧客接点として新規顧客を獲得している
  • イベントはブルースカイヘブンを代表に年間多数開催。現オーナー以外も来場し、見込み顧客獲得の機会になっている。
  • 付き添いでふらっと入店した客が一目惚れして購入を決めてしまうこともある
  • 接点をもった見込み顧客の情報をDB管理してナーチャリングする。
HDJの販売店改革
  • 元々バイク店の多くは町の自転車店だったため、以前は店内は薄暗く作業場のような雰囲気だった。
  • ハーレーの価格は平均200万円以上する高級品。高級品を購入する雰囲気ではない。女性も入店しづらい。
  • 「息子が店を継ぎたくなる、彼女を連れてきたくなる店に」
  • リテールエンターテイメントを標語に販売店を改革。バイクだけでなくアパレルも販売。
HDJにおける営業部門の役割
  • HDJの営業パーソンは販売代理店の経営コンサルタントとして、販売店の経営と業務の改善を指導する。
  • HDJは販売店の財務諸表を把握している。
  • 売店を管理するSFAと、顧客を管理するCRMの二本立て
  • 認知、来店、試乗、見積もり、購入のプロセスを管理する。
  • 購入が少なければどのアクティビティを増やせばよいのか考える。
  • 値崩れの原因となるため販売店に対してインセンティブマージンを設けない。

このメモは以下の書籍を元にまとめた。 

ハーレーダビッドソン ライフスタイル・マーケティング

ハーレーダビッドソン ライフスタイル・マーケティング

ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新

ハーレーダビッドソン ジャパン実践営業革新

なぜハーレーだけが売れるのか (日経ビジネス人文庫 ブルー み 2-3)

なぜハーレーだけが売れるのか (日経ビジネス人文庫 ブルー み 2-3)

 販売店での試乗で経験したのはまさに「Look,Sound,Feel」の体験。

そういえば通っていた教習所でもハーレーの試乗会が開催されており、確かにリアルな接点を意図的に作って新規顧客の獲得機会にしているようだ。

見積もり時はローンプランも提示して手に届く感を与える、「ハーレーはゆったり走って楽しむ乗り物」と説明して配偶者を安心させる、などの本で書かれていた通りの接客も経験したが、まさに狙いどおりの効果をもたらしていると実感したw

はてなブログでブログを書いているオーナーの方もいるが、とても楽しそう。

ケーススタディは当事者にならないとなかなか身にならないつまり仕掛ける側か顧客側かを経験すべきだからとりあえずXL883Nを買うことにした。

ちなみに883のデザインはダイス・ナガオさんという日本人が手がけている。こういう動画も僕から見るとAppleのジョニー・アイブのビデオっぽくってブランドとの距離が近づいてしまう。

www.youtube.com

Product Principles(製品の原理原則)とは

(この記事はProduct Manager Advent Calendar 2016の24日目のエントリーです)

Product Principles(製品の原理原則)とは、プロダクトの方向性を決める意思決定の基準となるものだ。Inspiredの13章で解説されているものを超ざっくり要約すると下記のような感じだ。

  • プロダクトに関する信念や意図を宣言したもの
  • トレードオフや優先順位の判断に役に立つ
  • 機能リストではないし、具体性を持ったものではない
  • 例えば映画サイトにおいて「映画コミュニティの意見は専門家のレビューより価値がある」という原則を定めたとする
  • 制作会社から「専門家の映画評を載せたい」とリクエストされたときに容易に可否を判断できる 
Inspired: 顧客の心を捉える製品の創り方

Inspired: 顧客の心を捉える製品の創り方

 

 確かにプロダクトのコンセプトとしてターゲットや提供価値を明確にしていても、プロダクトマネージャーとして判断に迷ったり、チームの意見が割れたりする局面がある。

例えば、競合の新機能は評判が良いと聞いた、大口の見込み顧客から要望を受けた、といった状況で「際限のない機能追加の誘惑」にかられたりする。スポーツカーとファミリーカーとトラックの特徴をもった自動車を作るのは難しいが、物理的な制約がないソフトウェアの場合、「やらない判断」をせずに次々と機能を付け足していくことができてしまう。

そんな時は、「プロダクトが大切にすべきこと」が言語化されており、原理原則として共有されていれば議論になったり迷ったりすることなく判断できる。

こちらのスライドの説明もわかりやすい。

 

具体的にこうした原理原則を定めているサービスの例を探してみたのだが、ちょっと適当なものが見つからなかった。

下記はGoogleのミッション・ステートメントだが、具体的でProduct Principlesに近いように感じた。

1. Focus on the user and all else will follow.
2. It’s best to do one thing really, really well.
3. Fast is better than slow.
4. Democracy on the web works.
5. You don’t need to be at your desk to need an answer.
6. You can make money without doing evil.
7. There’s always more information out there.
8. The need for information crosses all borders.
9. You can be serious without a suit.
10. Great just isn’t good enough.

下記の記事ではTrelloのProduct Principlesが紹介されている。

もう少しわかり易い例が見つかったらまたこのブログで紹介でしてみたい。

参考

下記はそれぞれFacebookとAsanaのDesign Principles(Product Principlesではない)。
▼ Facebook Design Principles
Developing Design Principles - Our Design and Product Experience Goals

Design Principlesについては下記のサイトで色々なサービスのものがまとめられていた。
▼ Design Principles FTW

因果ループ図でプロダクトの改善点を考える

システム思考では、システム(物事が動くカラクリ)を因果ループ図(Causal Loop Diagram)によってモデル化する。例えば、人口の増加は下記のようにモデル化される。

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出生数が増えれば人口が増える。人口が増えればさらに出生数が増える。このサイクルだけだと無限に人口が増加していくが、死亡によって人口増は抑制される。人間の寿命の存在がこのシステムの制約(Constraints)の一つになっている。

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ここに医療の発展や戦争などの影響を考慮すると、下記のようになる。

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因果ループ図ではシステムの状態を表す変数(Variables)を書き出し、変数同士の関係を矢印で示す。変数間の相関の正負(片方が増えれば連動してもう一方も増えるのか、逆なのか)を+-の記号で表す。因果ループ図は下記の参考図書でわかりやすく解説されている。 

 プロダクトやプロセスの改善を通じてシステムのパフォーマンスを最大化するのが、プロダクトマネージャーの仕事だ。その際、この因果ループ図を書くと改善すべきポイントを発見しやすくなる。

フリマアプリを例に因果ループ図を書いてみよう。売りたい、または買いたいと思う取引希望者が増えれば、売買の成立が増える。売買の成立が増えれば手数料売上が増える。売上が増えると広告費を増やすことができ、新規ユーザーを獲得できる。ユーザーが希望通り売買できればリピート取引やクチコミが増える。

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さて、このシステムの最終アウトプットが手数料売上だとすると、このシステムのパフォーマンスを最大化するにはどうすれば良いだろうか。広告の投下量を増やすことで短期的な売上は伸ばすことができるが、投資回収に必要な期間は長くなり、システム全体の効率が上がったとは言えない。

因果ループ図を元に考えると手数料売上の先行指標は売買成立数となる。そこで売買成立数を制限しているものが何か考えてみよう。

買う側の立場で考えると、いかに出品が多くても欲しいものがなければ買わないし、値ごろ感がなければやはり買わない。そうすると、売買成立数の制約になるものとして、
1. 出品ニーズと購入ニーズのアンマッチ
2. 出品金額と相場とのアンマッチ
があげられそうだ。

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そこでニーズのアンマッチを解消する施策として、
a. 販売実績の多い品種を売り手に提示することで、出品傾向を変える
b. 広告のクリエイティブや媒体を変更することで、売り手が多く買い手が少ない品種に対してニーズを持つ会員を増やす
というのはどうだろうか。

出品金額と相場のアンマッチを解消する施策としては、
c. 売買成立実績をもとに出品時に相場価格を提示する
などが考えられそうだ。

a,cはプロダクトの機能追加によって、bはマーケティング活動によって改善できる。

以上の例のように、ビジネス・システムの全体像を因果ループ図で描き、ユーザー心理を踏まえてボトルネックになる箇所を特定することで、改善施策を検討しやすくなる。

KPI設計を行う際に因果ループ図を書いておくと、活動の因果関係に関する認識を関係者間で合わせやすい。このフリマアプリの例では、ニーズのマッチングを考慮せず新規ユーザー数だけを指標にしてマーケティング活動を行うと、ユーザーのLTVが上がらない可能性がある(ユーザー増加量と売買成立数の増加量が相関しない)。よって入会したユーザーに期待するアクティビティを考慮して、ユーザー獲得活動をコントロールする必要がある。例えば「新規登録ユーザーのうち、注力品種に購買意欲を示したユーザーの数」といったKPIを設定する。

なお、少ない労力で大きくパフォーマンスを改善できる箇所を、介入点(leverage points)という。限られたリソースで最大の効果を得るためには、この介入点をいかに発見するかが重要となる。