プロダクトマネージャーの道具箱

読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

プロダクトマネージャーに訊く #3:Smarby矢本さん

PMインタビュー

f:id:tannomizuki:20160509222716j:plain

― 簡単に自己紹介をお願いします。

smarbyのプロダクトマネージャーの矢本です。smarbyはブランド子供服の日替わりセールアプリです。2014年に4人でスタートしたのですが、現在はパートタイムを含めて30人ほどの会社になりました。

Yamotty Blogというブログでプロダクトマネージャーの雑記を書いています。

「衝動買い」というスマートフォンに最適化したEC体験を作りたい

― smarbyについて教えて下さい。

smarbyでは0歳の生まれたての新生児から小学校高学年ぐらいまで子供服を、割引価格で購入できます。フラッシュセールの要素があって、毎日新しい商品が掲載されますが一週間しか購入できません。スマホをさっと出してぱっと見て「あ、かわいい」と思ったら購入する、という衝動買い体験ができるサービスです。

ZOZOTOWNのような一般のアパレルECサイトは、ブランド、サイズ、カラーといったディレクトリ階層を辿って買い物をするサイトが多いんですが、僕らはユーザーが選択できる余地をできるだけ減らしています。smarbyは限られた上質な選択肢の中から選んでもらう、というコンセプトのサービスなんです。

スマートフォンで人気のC2C型コマースアプリでは、購入せずにザッピングしているだけのユーザーでも毎日数十分という時間を「見る」ことに費やしているそうです。購入するユーザーや出品するユーザーはさらに数時間という単位でアプリを見て、購入したり出品したりして楽しんでいます。これはすごいなと思うんですけど僕らはその真逆を行きたい。僕らのサービスのターゲットである「ママ」には特に時間が無いからです。

smarbyを一度使ったユーザーは、毎日継続的にサービスを使ってくれるユーザーが多いのですが、滞在時間は数分程度です。新しく出た商品をばーっとみて、短い時間で賢く検討するユーザーがすごく多いんですね。購入するユーザーでも20~30分程度しかかけません。ママという属性に最もフィットしたサービスを模索する結果が現れていると思います。またこれはスマホECらしい、新しいユーザー体験なんじゃないかと思っています。

f:id:tannomizuki:20160510202804p:plain

― なぜそうしたサービスを提供しようと思ったのでしょう?

子供ができても男性の生活って大きく変わらないですよね。お腹も傷めないし、仕事も続けられる。でも女性は自身の身体にも大きな変化を伴い、また出産後もまとまった時間を確保しずらくなり生活が分断的にになっていく。そうした中で、「課題解決型」の病児保育や家事代行などの育児をする女性の課題を解決するサービスは数多く出てきています。

一方で、「子育ては楽しいものだ」というブライトサイドを大きくするようなサービスについては、まだ満足できるようなものが少ないと思っています。

自分の子供に可愛い服を着せて写真を取るって誰でもやりますよね。撮ってる時も笑顔になってるし、後で写真を見た時も笑顔になる。服を選ぶ時も、服を着せるときも楽しい。育児をする女性にとって楽しいサービスは何かと考えた時に、この体験を原点として活かせるようなサービスを作りたいと思ったんです。

また、サービスの検討当時にシアトル発のzulilyという、子供服やママ向けのアパレル・雑貨カテゴリのECサイトがすごいスピードで伸びていました。日本の子供服市場がそれなりに大きいですし、こうしたサービスが日本でも必要じゃないかという代表の遠藤の思いがあってsmarbyが始まりました。

― リリース時の反応はどうでしたか?

ユーザー登録して商品を選んで決済ができる、といった最小限の機能を備えたMVP(Minimum Viable Product)を作って2014年の11月にリリースしたんですが、初日の売上が想定していた金額の100分の1程度でした。運営サイドに誰もECサイトの経験がなかったこともあって、こんなに難しいものかと思い知りました。

3000人の先行ユーザーにクーポンを配布していて、リリース時にメールを送ってそれなりにアクセスがあったんですが、ほとんど購入までには至りませんでした。欲しい商品がなくて離れていったのか、そもそもアプリの使い勝手が悪くて購入プロセスの途中で離脱したのか、とにかくファネルの全ての箇所に問題があったのだと思います。リリース後はそれらを一個一個、地道にクリアしていく毎日でした。

― ターニングポイントはどこだったのでしょう?

リリースしてから一ヶ月半ほどたった、2015年1月の福袋企画がターニングポイントになりました。当時のMD(商材)を冷静に見なおして分析すると、「これは欲しくならないよね」、と気付きました。

商材を改めて厳選し、それまで委託中心だった商材写真の撮影を自社ではじめて撮影しました。そして、この福袋はなぜ買う価値が有るのかをSmarby Pressという自社メディアを使ってユーザーにきちんと伝えました。コンテンツとチャネルをきちんと作りなおしたんですね。

今考えると当たり前すぎるんですが、いい商材を集めて魅力的に見せるという行為をきちんとやったらちゃんと売れた。それがチームにとってすごく良い原体験になりました。

ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)と言いますが、VMDのクオリティに拘ることで購買に繋がるサービスになっていきました。

f:id:tannomizuki:20160426211117j:plain

Googleのプロダクトマネージャーとの活動経験を活かして

― Smarbyにジョインしてプロダクトマネージャーになるまでの経緯を教えて下さい。

新卒で総合商社に入社して、エネルギーの権益獲得とマネジメントをしていました。カザフスタンの真ん中にあるウラン鉱山に穴を開けて、硫酸を流して溶けたウランやレアメタルを抽出して売るという事業会社の経営です。カザフスタンに1週間出張して帰ってくる、といった生活をしていました。

その後総合商社を辞めて、震災復興支援のNPOであるRCFに転身しました。震災当時、僕は東北大学の大学院にいて、その時に仙台で被災をしているんです。その時に何もできなかった/何かをできるスキルが無かったことがすごく精神的に尾を引いていて、復興支援にきちんとかかわらないと先に進めないと気づいたんです。

RCFではGoogleから資金調達をして、Googleの人たちと一緒にイノベーション東北というプロジェクトを立ち上げました。イノベーション東北は、東北の事業者の課題を抽出して、日本中のスキルをもったボランティア、プロボノとマッチングする、というサービスです。僕はそこでプロジェクトのリーダーというか、マネジメントをやっていました。

イノベーション東北が一区切りついた頃に、Smarby代表の遠藤からママ向けのサービスをやりたいという話を聞きました。ちょうど子供ができたタイミングだったこともあって、いいねと共感してジョインすることにしました。

― SmarbyにジョインしてからすぐにPMとして活躍されたのでしょうか?

いえ、僕はコードが書けるわけでもなく、スペシャリティがほとんどない状態でSmarbyに来ているので、まずはじめに柱になるものを何か一本建てようと思い、マーケティングを担当することにしました。プロトタイプやプレゼン資料をもって東京中の保育園や託児所など、ママが沢山いそうなコミュニティを回って事前登録を集めたり、インフルエンサーとなって周囲に広げてくれそうな人に会いに行ったり、サービスの認知を獲得するための仕事を泥臭くやりました。

サービスをリリースしてからは、Webマーケティングを一つ一つ学んで、サービス成長させるためにペイドとアンペイドのマーケティングや、同時にコンテンツサイドであるMD(商材の仕入れやVMD)全体を管轄していました。

自分は事業上で一番ボトルネックになっているところを受け持つという役割、というスタンスで仕事をしています。。
ただ、ビジネス的な検証だけでなく、プロダクトの使い心地やそれに紐づくアプリやWebでは当たり前のような中間指標を伸ば差ないと売上は伸びてこないよね、という状態になり、僕がプロダクトに関わることになりました。2015年10月のことなので、PM歴はちょうど半年ぐらいですね。

― キャッチアップの早さに驚いています。

イノベーション東北でGoogleの人たちとやっていたプロジェクトの経験が、今の仕事に生きています。

メンバーが豪華で、USでGoogle Mapマップを担当しているプロダクトマネージャーとか、日本でGoogle+を担当しているマーケティングマネージャーとか、Google Adwardsの部長とか、そうしたメンバーが20%ルールを使って、イノベーション東北に参加していました。特にGoogle Mapのプロダクトマネージャーだった河合さんという方の下ですごく学ばせてもらいました。

その時僕はプロダクトを作っていたわけではないし、マーケティングをしていたわけでもないんです。東北の事業者のニーズを集めて、ニーズを満たすためには何がボトルネックになっているか見極めてそれを解決する、という行為を繰り返していたわけですが、プロダクト開発って結局そうした課題解決の積み重ねですよね。

― PMとして短期間でスキルアップするためのコツはありますか?

僕はかたっぱしから文献を読んで、あの人はこうやって上手く行ったみたいなケースを集めました。また、できることが少ない際には、ツールを使い込んでで自分を拡張することが一番の近道だと思っています。誰彼はこのツールは良いと言ってる、と聞いたら自分でも使ってみます。最近使ってみて良かったのが、guiflowというツールです。Markdownで書くと遷移図が生成されるという、メンテもすごく楽な便利なツールがあって、僕も手掛ける仕様書がグレードアップしました。

― マーケティングだけでなくプロダクトを見ることになって、エンジニアとのコミュニケーションはスムーズに進みましたか?

まだエンジニアチームも小さいので意思決定や議論はスムーズですね。P/Lからプロダクト、マーケティングまでほぼ全権を委任してもらっているので、僕がすべて判断できます。僕とエンジニアで密にコミュニケーションして開発しています。

エンジニア側のリーダーが、良いサービスを作るために技術をどう使うか、という考え方なのでお互いに歩み寄って議論できてやりやすいですね。僕は彼をすごく信頼しています。

― 具体的にはどのようにプロダクト開発を進めていますか?

Qiita:Teamに仕様書を書いて、GitHubにイシューをあげて開発側とコミュニケーションを取りながら進めています。僕からは機能の優先度、whyやwhat、いつまでにリリースしたいといった情報を伝え、その上でエンジニアに内部仕様と開発スケジュールを決めてもらいながら作っています。

細かいところで気をつけてるのは僕がボトルネックにならないということです。レビューやレスは早く、できるだけ齟齬のない言葉で行う。エンジニアがエンジニアリングに集中できるようにしています。

― エンジニアチームとはオンラインでのやりとりが多いんですか?

そうですね、あまりミーティングはしません。うちのエンジニアは「読んどきゃ済む」が好きなんですよ。なので仕様書をちゃんと書きます。サービスとしてはこういうことをやりたい、この機能を追加するとサービスはどう良くなるのか、なぜこの機能が重要なのかを仕様書としてシンプルに書いておきます。ちょっと複雑な仕様は、リモートのメンバーも多いのでSlack Callで5分程度話して説明します。

一度踏み込みすぎて、データモデルの案まで仕様書に書いたことがあるんですよ。そういうのは嫌がられますね。「それはこっち考えるから、お前はサービス側に集中しろ」と言われました。エンジニアとのコミュニケーションにおけるアンチパターンですね。

いかに作らずに仮説を検証するかがPMとしての腕の見せ所

― プロダクトマネジメントをする上で、大事にしている考え方はありますか?

今だと「できるだけ作らない」ことにはこだわっています。プロダクトを世に出すっていうのは、なんらかのアイデアや仮説を検証するという行為と等しいと思っています。仮説を検証する行為ってプロダクトを出す以外にも無数にあります。なので、僕らにとって一番貴重なエンジニアのリソースを使わずに、作らないで仮説を検証するようにしています。

アイデアの量に対して作れる量が上回ることはありません。「いかに作るものを厳選するか」ということがプロダクトマネージャーの介在価値だと思っています。

― 具体的に作らずに検証した例を教えて下さい。

マーケティングに力を入れたので、「集客」にはある程度は成功したんですね。継続利用ユーザーも増えていって、そこからいかに購入まで体験を楽しんでもらえるか、という「接客」が次の問題になりました。そこで、チャットというユーザーが親しんでるUIで購入体験まで完了できるようにしたら、楽しいんじゃない、という仮説をたてました。
ただ、チャット機能はサービスモデルの設計も開発コストも高く、サーバーのパフォーマンスとしてもハードなので、いきなり実装する判断はしづらい。

要はチャットUIで商品をお勧めされたら購入に至るかもしれない、という仮説を検証できればいいわけです。そこでLINE@の自社アカウントで、欲しいものがあったら聞いてください、と問いかけてみました。そうすると返事が返ってきて、僕が手作業でおすすめ商品を投稿すると、かなりの高頻度でその商品が購入されたんですね。このアイデアは実現する価値があるから作ろう、という判断ができました。

― 新しい仮説を立てるためにどのようなことをしていますか?

プロダクトマネージャーはデータを水を飲むように見てなきゃいけないと思っています。まずはデータで自社のサービスのどこに穴があるのか把握しつつ、逆にどこを伸ばしたいかを考えます。

smarbyの「衝動買い」というコンセプトから紐解けば、どの指標を伸ばすべきか自ずと明らかになります。穴だけ見つけて解決するだけだと、穴を埋めた後どうすべきかわからなくなります。そうではなく、目指したい世界を定義して、その実現された姿を数字に落として伸ばしていきます。

もう一つは色々なサービスをさわりまくって、ユーザーが普段使っていてストレスなく使えるものは何なのか常にみています。smarbyはアプリに注力しているので、アプリで買い物するとか、写真を沢山みるっていう行為は、どういうものがストレスがなくて気持ちが良いのか、常に研究しています。

― ユーザーヒアリングからヒントを得ることはありますか?

社内のバイヤーがみんなママなのですぐに意見を聞けるという環境のせいもあって、ユーザーヒアリングは全然やらないんです。

Reproというサービスを使ってユーザーの動きを観察しています。ヒアリングより示唆が得られることが多いですね。PMとしての武器が一つ増える感じで、僕はかなり重宝しています。

プロダクトマネージャーに必要なのはコミットメント

― PMを志す人におすすめの本はありますか?

PMになりたい人にはまず覚悟が必要かなと。僕がPMの一番大変だと思う所は、自分をアップデートし続けなきゃいけない所です。PMは自分の仕事の範囲を定義せずに、空いたボールは全部拾わないといけない。自分でできることより、できないことが沢山あるなかで、自分に甘える気持ちを無視して高いコミットメントを持ち続けないと良いプロダクトは作れません。

そんな中ですごく良いメッセージが書かれているのが、岡本太郎の「自分の中に毒を持て」という本です。 

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間

自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間"を捨てられるか (青春文庫)

 

 この本に「道で己に逢えば、己を殺せ」という名言が出てきます。「己の道を邪魔するのは己自身だから、自分を殺せっていう」という意味です。資金が尽きたら会社は死ぬし、自分たちの信用やお客さんなど築いてきたものがすべて崩れます。だからこのサービスを成功させないと我々に未来はない。そういう覚悟を持って、甘えを捨てろという自分を奮いたたせるメッセージを受け取っています。

― 最後に読者に伝えたいことはありますか?

PMを絶賛募集しています!

僕がプロダクトを育てることに関心を持つようになったのは、Googleの人たちの仕事の進め方を見て、プロダクトを作る人ってかっこいいなと思ったことがきっかけです。その時の経験からPMの仕事の仕方は徒弟制度みたいな形で受け継いでいくのが効率的なんじゃないかと思っています。僕も自分が得たものを全て受け渡していきたいと思っていますし、会社としてはPMが二人になって見れるプロダクトが増えます。

興味のある方はyamoto[at]smarby.jpまで連絡をください。Wantedly経由でも結構です。 

プロダクトを成功させたいという意思があって、自分が変わることを恐れない人を待っています。もちろんエンジニアやデザイナーなど全方位で募集中です!

― ありがとうございました。