小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

成長企業が知っている人材採用の秘密

ウィルス進化論という学説がある。ウィルスの遺伝子が感染した宿主の遺伝子に逆転写され、それが生物の非連続な進化をもたらす、というものだ。一般的に認められた学説ではないが実に興味深い。

ウィルス進化説とは異なる話だが、生物の細胞内のミトコンドリアは、原始真核生物が細胞内に取り込んだ細菌だといわれている。ミトコンドリアは酸素や糖をエネルギーに変える。太古の生命はミトコンドリアの取り込みによって、大きなエネルギーを獲得しより活発な運動が可能になった。

急成長するネット企業に2年と少し在籍して、強く意識するようになった事がある。それは「成長する企業は、外部から優秀な人材を積極的に採用し、新たな組織のDNAとして取り込みながら進化する」ということだ。まさにウィルス進化説やミトコンドリア取り込みと同様である。

ただ、多くの企業はその事実に気がついていない。採用とは、たまたま求人に応募してきた求職者を企業が「選考」するプロセスだと考えている。

採用とは自社に関心を持っていない、もしくは存在すら認知していない優秀人材を発見し、自社への共感を獲得していくプロセスに他ならない。もちろん選考が不要なわけではない。ただ、自社の発展に貢献する人材であるとひとたび見極めたならば、働く者にとっての自社の価値(Employee Value Proposition)をアピールし、意向と共感の獲得に全力を注がなければならない。

採用を担う人事の仕事は、マーケティング業であり、セールス業であり、接客業なのだ。それに気づいていない企業は、人材獲得競争の勝者になることはできない。

ネット企業では、カスタマージャーニーマップを作成して自社のサービスに対してユーザーがどんな体験をしているのかトレースし、サービスの問題発見と改善に役立てる。昔、初めてジャーニーマップを作った時、あまりの負の体験の多さ、離脱ポイントの多さに愕然としたものだ。

「良い人材が集まらない」と感じている経営者の方は、求職者の視点で「採用プロセスのカスタマージャーニーマップ」を作成し、優秀な人材を獲得できるプロセスになっているかチェックしてみてはどうだろうか。初めてサービスのジャーニーマップを作った私と同様に、負の体験の多さに愕然とするかもしれない。

人材採用に対する考え方を変えた企業が勝つ。もしかしたらそれは経営者の能力や事業モデルよりも、企業にとって重要な要素かもしれない。 

ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)

ウォー・フォー・タレント ― 人材育成競争 (Harvard Business School Press)