小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

プロダクトマネージャーに訊く #2:デザインワン・ジャパン本田さん

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― まずご自身について教えて下さい。

株式会社デザインワン・ジャパンの本田です。エキテンという店舗の口コミ・ランキングサイトの企画及び営業、サポート部門の責任者をしています。

デザインワン・ジャパンには2014年の10月に入社しました。前職は恋愛ゲームの大手プロバイダでゲームのプロデューサーや海外事業の責任者をやっていました。新卒で入社した会社は富士通です。富士通ではキャリアや官公庁向けの通信インフラの営業を担当していました。

― 本田さんの現在の役割を教えて下さい。

エキテンの実質的な事業責任者として、企画系、営業系、サポート系など80名ほどの部門をマネージメントしています。事業上の課題に対して解決の方向性を考え、こういうサービスや機能を追加していきたいといった大枠のイメージをチームに共有します。そしてチームから詳細な企画提案をもらって、フィードバックしながら施策を実現していきます。

入社当初はマーケティングやプロモーションを担当していましたが、色々とプロダクトの課題が見えてくるにつれて企画全体を見るようになり、料金プランやサービスの改善を行いました。最終的には営業やサポートを含め開発以外のすべての部門を見るようになりました。

情報メディアが存在しない分野をネットで検索可能にすることで、地域経済の発展に貢献

― エキテンはどのようなサービスですか?

エキテンは全国の店舗情報がオールジャンルで掲載されているサービスです。ホームページを制作する知識がなかったり、宣伝チャンネルがエリアに存在しない店舗でも、エキテンに情報を掲載することで集客できます。

ラクゼーションや接骨院などの治療院業界や、歯科、花屋、リサイクル、写真館などの大手の情報メディアが存在しない分野においては、エキテンが個人事業主の方にとって唯一のメディアになっています。お店を探す人にとっては、メディアが全然存在しないようなエリアやジャンルでもエキテンが検索にヒットしてお店の情報を知ることができます。

店舗向けの集客手段の不足は地方都市で顕著です。地方の事業主の集客を支援することで、結果として地域経済の維持発展に貢献できているのではないかと思っています。

― 競合となるサービスはありますか?

食べログホットペッパーなど特定の分野に特化した情報サービスはありますが、全国かつオールジャンルで情報を掲載しているサイトはエキテンが唯一と言っていいでしょう。

飲食や美容など市場規模の大きいジャンルは大手がサービスを展開していますが、全国で数千店しかないようなジャンルでは、よっぽど客単価の高いジャンルでない限り、個別に情報メディアを立ち上げるのは困難です。

エキテンではすべてのジャンルの店舗に対して機能を共通化することで、非常に安価でサービス提供できています。無料プランと有料プランがありますが、無料でもかなりの機能をお使いいただける仕組みを作れています。PCやインターネットが苦手な店舗さんでも使えるようにシステムを工夫しており、有料で情報掲載を支援するサービスも提供しています

― 最近のアップデートについて教えて下さい。

昨年の5月から半年かけて大きな改修をしました。これまでエキテンではブログの記事のようなフリーフォマットで店舗情報を掲載していました。これを大幅に改修しまして、商品カテゴリや価格や写真などをECの商品アイテムのように構造化して登録できるようになりました。

これによって取り扱いサービスをベースとしたお店探しをユーザー側で行えるようになり、他店舗との価格比較もできるようになりました。例えば「60分のマッサージを受けたい」という場合に、エリア内の各マッサージ店のメニューを一覧化して価格比較ができます。

店舗にとってもメニューをリスト形式にしたりサムネイル形式したりと商品のタイプによって表示形式を変えられるので、ユーザーに対して訴求力が増すというメリットがあります。

店舗様が操作するCMSも複雑化したため管理画面も大リニューアルし、情報設計の再整理やレスポンシブ対応を行いました。

モバイルインターネットに可能性を感じて大企業からベンチャー

― 営業からキャリアをスタートされていますが、サービス開発のスキルはどのように身に着けていかれたのでしょうか。

私が前職のモバイル・コンテンツプロバイダーに入社した時、まだ20数名の会社だったので色々な仕事をする機会がありました。おかげで、インターネットの仕組みやWebサービスの構造、ビジネスモデルなどを自然と学ぶことができました。

着信メロディサイトのプロデューサーをやっていたのですが、サイトの立ち上げ初期には企画だけでなくデータベース設計もしていました。「人気アルバム全曲」というタイトルで、iモードの着メロサイトでは後発ながら、ランキング上位に入るなどドコモからも高評価を受けていたタイトルでした。

また、自社のフィーチャーフォンのコンテンツをスマートフォン用に変換するフレームワーク開発プロジェクトのディレクションも担当しました。その他にも自社サービス間でユーザーを誘導しあうアドネットワークを開発して全社的な収益構造を大幅に改善したり、ソーシャルゲーム開発のマネジメントをしたり、エンジニアと密に連携して企画を行っていました。

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富士通から当時まだベンチャーだった前職に転職したきっかけはなんだったのでしょう?

富士通で私が携わっていたのが携帯のインフラで、当時のJ-PHONEツーカーといったところがお客様でした。通信回線が2Gから3Gに移行する時期で、基地局や基幹系の通信設備を売っていたのですが、総務省のネットワーク整備計画を見て時代の変化を予感しました。

メタル回線から光回線になり、携帯がモノクロからカラーになってアプリが動くようになり、ああ、これはすごい時代になるなと思いました。インフラを売るよりコンテンツの中身を売りたい、通信インフラ上で動くサービスを自分で作りたい、という思いが非常に強くなったんです。

当時、スカイメロディという、電話番号を入れるとSMSで着信メロディが送られてくるコンテンツ配信サービスを富士通が作っていたのですが、こういうモバイル向けのサービスはいいなと思ったのをきっかけに前職に転職してモバイルコンテンツの世界に飛び込みました。

― そして上場を果たした前職から再びベンチャーへ転職されたのですね。

私はモバイルインターネットに大きな可能性を感じて前職のコンテンツプロバイダーに入社しました。前職ではベンチャーが大きく成長して上場するプロセスの中で、様々な経験をして多くのことを学ぶことができました。ただ、恋愛ゲームがヒットして会社がそこに集中していく中で、自分が本当にやりたかったのはこれだったのだろうか、感じるようになりました。そして改めて自分を見つめ直した結果、転職を決意したのです。

仕事を通じて社会を良くしたい、という想いで10社以上の企業を比較検討しました。最終的には代表が富士通時代の同期だったというのと、事業が持つポテンシャルや社会に与えうるインパクトを鑑みてデザインワン・ジャパンへの入社を決めました。

プロダクトマネージャーに最も必要なのは、自分の中に判断軸を持つこと

― 良いプロダクトを作る上で意識していることはありますか?

自分にとって良いプロダクトの定義は「多くの人に長くつかってもらえること」です。他社サービスと比較しながら、どれくらい多くの人が価値を感じてくれるのか、継続性があってスケールメリットがあるか、普遍的なニーズがあるものなのかどうか、ということを常に意識しています。

ごく一部の顧客からしか要望がない、とか、この瞬間しか使えない、というものについては基本的にGOを出しません。「なぜを5回繰り返す」といいますが、このサービスによって何がどう変わるのか、具体的にイメージできることが重要です。

また、他社のサービスを積極的に使うようにしています。何か新しい施策をやる場合は、他社はどんなことをやっているのか徹底的に調べないと気がすまない。面白そうだなと思うアプリはとりあえずインストールしてみます。結局は使わないことが多いんですが、どういう仕組みや制度でやっているのか一通り見てみます。

― 着想のコツのようなものがあれば教えて下さい。

まず事業やユーザー行動の構造を理解することですね。構造理解をベースにしてプロダクトイメージを具体化することで、発案からリリースまでスピードを早めることができます。

その際、フレームワークに基いて思考すると構造理解がしやすくなります。例えば、エキテンのアップセルプランはとてもうまくいって次の成長の原資を作ることができたのですが、売上を伸ばす上では顧客数を増やすか単価を上げる必要がります。顧客数が伸びているなかでどこに伸びしろがあるだろうか、と考えれば必然的にアップセルプランに行き着きます。

あとはデータをよく見ること。今でもエキテンの分析用データベースにAccessで接続して、自分自身でクロス分析などをしています。

― その他にPMに必要なマインドセットとして重要なことはなんでしょう?

プロダクト開発において一番重要なことは「自分がどうしたいか」だと思っています。誰かに言われたから、という理由でやっていても絶対に良いものはできません。きっかけは誰かの発案や指示だったとしても、それを受けて「自分はこうしたいと思ったからこういうプロダクトを作る」といったように、自分のなかで大きな軸を作らないと絶対にうまくいかない。「なぜやるのか」を自分自身に対して問い、「こういうことをやりたい」という意思を持ったPMが作ったプロダクトは強いと思うんですよね。

前職でマネジメントを担当していたソーシャルゲームではビジネスとして最低限の結果は出せていましたが、トップコンテンツの収益を抜くことができませんでした。

今にして思うと「なぜやるのか」ということがわかっていなかったのでしょう。プロジェクトにアサインされたからやったというような状態で、事業にコミットできていませんでした。表面上はうまくやっているように見えていたかもしれませんが、それは目的が明確でモデルが確立した分野だったからです。自分でやる意義を見いだせないことをやっても大きな成果はあがらない。自分で新たなモデルを構築しなければならない立場になったときにPMとしての真価が問われます。

― PMにとって一番必要なのは軸を持つことだ、と。

はい。プロダクトマネージャーに決まった型はないのではないかと思います。自分がどうしたいか、を基準に考えるのが一番いいのでは。

プロダクトマネジメントに関わる人の中には、自分は器用なだけのなんでも屋なのではないのか、と自分の専門性に迷いを感じる人もいるようですが、私自身もなんで屋ですし、それは良いことだと思っています。自分がこうしたいと思う方向に対して、なんでも屋気質を使って色々なアプローチができるからです。これまでのキャリアで様々な経験をしたことがプラスになっています。

― 事業責任者やプロダクトマネージャーを志す人におすすめの本はありますか?

プロダクトマネジメントと直接関わりはありませんが、「嫌われる勇気」がお薦めです。アドラー心理学の本ですが、プロダクトマネージャーとして自分自身のなかに判断軸を持つことの重要性がわかる本です。 

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

 

― ありがとうございました。