プロダクトマネージャーに訊く #10:ウォンテッドリー久保長さん
— まず簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。社内での役割、仕事内容について教えてください
ウォンテッドリー株式会社の執行役員エンジニアの久保長です。Wantedly Visitというサービスのプロダクト責任者を担当しています。
ウォンテッドリーには6年前に入社しました。その前は自分で創業したスタートアップでプロダクト開発をしていて、二年間で二社のスタートアップ立ち上げを経験しました。そのあと3人目のエンジニアとして入社しました。
— どんなスタートアップの会社をやられてたんですか?
一社目はiPadを使ったレジアプリのようなものを作っていました。iPadが出たての頃です。iPadが出たことで、タッチパネルのデバイスのコストが大きく下がったことや、当時iPhoneを使っていて非常に便利だったので、それを他のビジネスシーンでも活用できるのではと思ったのが始まりでした。
— スタートアップでのビジネスは上手く行ったのでしょうか?
あまり売れず、またサポートにも苦労しました。最初無料でタッチパネルを置けばいいと考えましたが簡単には置けず、また置いた後もネットワークの設定が分からない、ハードウェアの故障など想定しない問題も多発しました。
— 良いものを作れば売れるわけではない、と。
使ってもらうことは非常に難しいことです。自分の限られた時間を費やすわけですから。
プロダクトの初期フェイズは一番重要な価値にフォーカスしてそれを研ぎ澄ますことが必要だったり、それを受け入れてくれるお客さんにサービスを提供するべきですが、エンジニアになりたての頃はそれがわかっていませんでした。
ただこの失敗経験を通して、ただ機能を作るわけでなく、「どう使ってもらうか」「どう広めていくか」まで責任を持ちたいと思うようになりました。
— ウォンテッドリーのどういうところに興味を持って入社されたのでしょうか。
当時、ウォンテッドリーには僕以外に2人、川崎と相川というエンジニアがいました。その2人がスーパーエンジニアだったので、「この2人と一緒に働きたい、この2人に追いつきたい」という気持ちで入社しました。
もちろん『シゴトでココロオドル人をふやす』というサービスのコンセプトが、良い課題の捉え方だなと素直に思えたことも大きいです。「世の中には良いチームや会社がたくさんあるが見えていない」「個人がより大きなビジョンをもった活動に取り組む機会を増やしたい」 という気持ちがありました。
もう一つはビジネスとしての成功可能性ですね。スタートアップ2社目ではクリエイター向けのポートフォリオ・サービスを作りました。その時感じたのがマネタイズの難しさです。サービスが提供する価値への対価をもらうこととのバランスを考えることの重要性を感じていました。Wantedly Visit はユーザーが働きたいという企業を並べ気軽に訪問できるようになることで、企業の採用ニーズに応えることで対価をいただくという、とてもわかりやすいサービスモデルでした。
— そもそもどういうきっかけでウォンテッドリーの存在を知ったのですか?
そもそものきっかけは代表の仲との共通友人です 。友達経由でウォンテッドリーのことを教えてもらい応募しました。訪問すると、ちょうど新サービスを立ち上げるタイミングで、6人くらいでサービス構想のブレスト・ミーティングをしていました。
— ではブレストに参加したことがきっかけでウォンテッドリーで働かないかという話になったんですね。
はい。面接ではなく、いきなりブレストの参加することになりました。自分にも意見が聞かれるなと思って、なんて答えようか考えながらそこにいたのが懐かしいです。最初は、週一ぐらいの頻度で関わっていました。「チームマネジメントの参考になればいいな」ぐらいの気持ちで関わっていたんですが、関わり始めるとサービスの面白さがわかってくるし、学ぶことも多く、どんどん深く関わるようになり、その流れでそのまま入社しました。
— 自然と巻き込まれていった、と。
そうですね、まさにWantedly Visit流です。
— 正社員は現在何人くらいいらっしゃるんですか?
今は50人くらいです。半分以上がエンジニアです。テクノロジーでスケールするサービスを作ることを意識しています。
— 一つのプロダクトに対してどういうメンバー構成で開発を進めていますか?
僕が担当しているWantedly Visitは、10人のエンジニアと2人のデザイナーで開発を行っています。エンジニアは4つのチームに分かれていますが、デザイナーばチームを横断してタスクを受け持っています。
ユーザーと企業のVisit゙を増やすGrowthチーム、企業が社内の人や事業について発信していくFeedチーム、ユーザへのスカウトを改善するScoutチーム、そして海外版Wantedly を開発するInternationalチームです。それぞれのチームのリーダーが数字に責任を持って進める、という体制にしています。
人と人との繋がりを通してビジネスを加速していく
— Wantedly Visit について教えてもらえますか?
『シゴトでココロオドル人をふやす』という課題をテクノロジーによって解決することをミッションにしています。「働くのがあまり面白くない」と思っている人も多いんじゃないでしょうか。働く時間は一生の中でも多く、その時間が面白くないことはもったいないですよね。僕は田舎の高校に通っていたんですが、勉強ができる優秀な友達は皆んな医師を志望するんです。医師も良い職業ですが、他の選択肢を知らないままキャリアを選択している。例えば、ベンチャー企業に入社して世の中を変えるようなサービスを作る、というのも優秀な人にとっての選択肢の一つだと思うのです。でも大学に進学して卒業して就職してから始めて複数の選択肢があったことに気づく。僕もそうでしたが選択肢を知る機会がないんです。
世の中を変えるために突き進んでいくような会社に、良い人が普通に入っていける。そういうところがWantedly Visitの社会的な存在意義だと思っています。
— ウォンテッドリーでは Wantedly Visit 以外にも様々なサービスを提供していますね。
人と人との繋がりを軸にして仕事を面白くしていくサービスを提供しています。別の言い方をすると、繋がりを通してビジネスを加速していく「ビジネスSNS」 を作ることを目指しています。例えば、名刺管理Wantedly Peopleを使えば、名刺を撮影するだけで簡単に人との繋がりを作っていける。チャットサービスWantedly ChatもビジネスSNSを実現するコンセプトの一環として提供しています。
—HR(人事領域)の会社、という認識はあまりないのですね。
Wantedly VisitについてはHRの要素が強いサービスですが、全社で見るとHRに 特化しているわけではありません。Wantedly Visitについても、企業の採用担当者のためのサービスというより、「気軽に話を聞きに行ける」「外からは見えにくい会社の中のことがわかる」というユーザー体験を大事にしているサービスです。
— Wantedly Visit を他の転職サービスと比べた時の特徴は?
一番の特徴は、採用面接の前に「話を聞きに行く」というスタイルを確立したところだと思います。ユーザーからすると最初に企業への興味が高くない状態で、履歴書を出すのでなく、もっと気軽に企業に訪問できるようになったのは大きな違いだと感じています。
また、たくさんお金を払った企業が上位に表示されるわけでなく、ユーザーが応募したい、応援したいと思う募集が上位に表示されます。採用担当者は、自社をアピールする写真を撮ったり、面白いタイトルを考える必要があります。採用したいと思う人が魅力を感じてくれるような文章を書かないといけません。
— ただ自分の会社の魅力を言語化するって難しいですよね。
難しいです。でもやっぱり社員全員が自社の魅力を語れる会社が強いと思うんですよ。
代表の仲が社員向けに゙書いたCulture Bookに、“レンガ職人”の話が書かれています。レンガを積む作業をしている人に「あなたは何の仕事をやっていますか?」と尋ねた時に、ある人は「レンガを積んでます」と答え、また別の人は「偉大なお城の門を作っているところです」と答えた、という話です。
「レンガを積んでいる」と答える人と「偉大なお城を作っている」と答える人とでは、仕事に対する意欲に大きな違いがあります。身の回りの社会人にどんな仕事をしているのか聞いた時に「レンガを積んでいる」と答える人がまだまだ多いんじゃないでしょうか。会社の魅力を社員が語れる、というのは「偉大なお城を作っています」と答えられる人が増えるということと同じだと思っています。
レンガを積む仕事よりは、偉大なお城を作る仕事のほうが絶対に楽しいはずです。僕らがやってることは単にユーザーと企業をマッチングすることではなく、『シゴトでココロオドル人をふやす』ことです。それがWantedly Visitの最大の意義だと思っています。
— 皆さんその難しさをどうやって乗り越えているんでしょうか。フォーマットにそ って書けば良いというわけではないと思いますが。
うまくいっている企業の口コミがモチベーションになっています。
自社の魅力をユーザーに伝えることができずに契約を終了してしまう顧客もいます。一方で、そうした企業の中にも他社の成功例を見て再度トライしてくださるケースも増えています。
ユーザーに魅力をうまく伝えられる企業が使ってくれれば良い、と考えているところはあります。ちょっと押しつけがましいんですが、我々は「こうあるべきだ」という思いが強いサービスを提供しています。企業の採用のあり方を変えていきたい、ユーザー・ファーストのサービスでありたい、と常に考えています。
— 海外展開も進められていますが、海外でも「なぜやるのか」とWhyを明確にするカルチャーはまだ無いんでしょうか?
海外でも旧来のジョブメディアは「なぜやるのか」がない職務定義だけのメディアが多いのですが、スタートアップ向けのメディアは事業やプロダクトへのパッションをまず書いたうえで職務定義を記載するという形式のサービスが増えてきています。
シンガポールでWantedly Visitの海外版の展開を進めていますが、同じコンセプトが海外でも通用するのではないかという手応えを感じているところです。
「全員がプロダクトマネージャー」が理想のチーム
— 久保長さんは入社直後はエンジニアとしてプロダクト開発に関わっていたわけですよね。プロダクトマネジメントについて意識されるようになったのはいつくらいですか?
2014年の9月に執行役員に選出され、プロダクト全体に責任があるという立場になってからです。
— Wantedly Tech Book 1 の中で、プロダクトマネジメントの章の執筆を担当されていますね。数ページの中にすごくコンパクトにプロタクトマネジメントのエッセンス がまとめられていると感じました。
ありがとうございます。自分の体験を元に書いたので、一般的なプロダクトマネジメントの方法論として正しいか分かりませんが、自分が学んできたものを言語化してマッピングしたところTech Book に書いたような内容になりました。
具体的にはユーザーをグロースさせていく方法、クライアントをグロースさせていく方法、0→1でプロダクトを作っていく方法、などまとめています。
— プロダクトを作るところまでではなく、その価値を伝えるところまでがプロダクトマネジメントであると書かれていますね。
プロダクトを「作って終わり」というのことがよくあります。ユーザーにプロダクトを使い続けてもらうのは本当に大変です。プロダクトを実際に多くのユーザーが使ってくれるようになるまでには、プロダクトを作るのにかけた時間の10倍くらい時間がかかるものだと思っています。ですからプロダクトを実際に使ってもらうことをプロダクトマネジメントのゴール設定にすべきです。
— Tech Book には「プロダクトマネジメント」について書かれていますが、「プロダクトマネージャー」という言葉は出てきませんね。プロダクトマネージャーの役割を定義するとすれば、どのようなものになりますか?
プロダクトを目標のスピードで成長させ、技術面でも強いチームを作ることです。
何をどの期間で作るかは、開発の中身にも影響します。そのため、プロダクトリーダーが開発を理解することは必要だと考えています。また、強い開発チームがあれば最終的に改善の速度は上がり、いいエンジニアも集まります。
その上で、理想のプロダクトマネージャー像は、一人で全て把握してコントロールできる人というよりは、学習するチームを作ることができる人だと考えています。学習するチ ームとは、「プロダクト開発における意思決定ができる人」が育つということです。
— 「全員がプロダクトマネージャーであるべき」ということでしょうか。
はい、サービス開発するエンジニアはプロダクトマネージャーに近づいていくのが理想だと思っています。ユーザーに対して深い理解があり、自分が担当する機能に詳しくなっていくことです。
エンジニアに限らず、ビジネス側の人であってもプロダクトを知っている方が良いと思います。どの職能のメンバーも自分の担当分野だけでなくプロダクトの理解が深めることで、プロダクトチームとコミュニケーションしやすくなり、プロダクトのコンセプトがそれぞれの職務でも浸透するからです。
Facebookのグロースチームでは個々の社員がそれぞれ成果を競い合う文化がある、と聞いたことがあります。Wantedlyのグロースチームも一人で何でもできるようにしたいと考えています。開発も分析もマーケティン グも周りにサポートしてくれる人も基盤もある。そうしたチームを理想としています。
ユーザーは「機能」ではなく「結果」を求めている
— メンバーが企画した施策のレビューはするのでしょうか?
レビューは毎週の1on1でチームのリーダーと行なっています。プロダクトとしての価値の共有や開発期間の切り方や施策の結果の共有を行なっています。施策の期待値のフィードバックも行いますが、施策の意思決定は最後は自分でなくチームのリーダーにしてもらいます。
— 確かに自分で意思決定して結果に責任を持たないと成長につながらないと思います。
そうですね。ある程度ユーザー数の規模があるとA/Bテストもしやすいですし、 今はリーダーの裁量に任せて仮説検証を繰り返す、というやり方で進めやすいフェーズです。
— そうは言っても施策によっては売上にネガティブなインパクトが発生してしまう可能性がありますよね。プロダクトの不具合によって顧客に迷惑をかけてしまう可能性はありませんか?
不具合に関しては開発の基盤やフローを改善して起きにくい仕組みを作っています。
施策は顧客への大きなものは、リリース前に自分の確認や社内確認のフェイズを入れてリリースしています。
— メンバーやチームの裁量に任せる、という考え方を持つに至ったのはどういう 経緯でしょうか。企業文化に基づくものだとは思いますが、久保長さんご自身がそう考えるようになったきっかけはありますか?
プロダクトを作る上で開発の質も重要で、開発の質とプロダクトの質のバランスをとるためにはエンジニアリングに深い知識を持つ必要があります。その上で、エンジニアがプロダクトをマネジメントしていけるように育つ方が良いと思っています。
— 顧客のインサイトはどのようにして把握していますか?例えば Wantedly Visit だと企業の採用担当者が顧客になると思いますか。゙
ビジネスチーム全員がGitHubで開発進捗を把握できるissueが作れる文化を作っており、日々声が聞きやすくしています。
一方で、転職の感覚は人や企業によって大きく変わるので、顧客の声から意思決定するよりも、最終的にはデータを見て判断するようにしています。
— 採用担当者と個人とではどちらの要望を優先しますか?
個人です。従来のメディアが採用担当者に目線を向けているので、ユーザーに常に目線を向けようとしています。
— ただ採用企業と対面しているビジネスチームを通じて、機能追加のリクエストが来ることもあるのではないでしょうか
もちろんあります。機能リクエストは常に受け付けており、各チームに伝えます。
とはいえ、メインのKPIに影響しないものは取り組みにくいので、負債返済日、UX改善プロジェクト、営業に役に立つ数字出しコンテストのようなイベント形式で1-2日全員のリソースを一気に当てて改善します。
— 最終的には数字で判断、とのことですが、データ分析の環境が整っているということでしょうか。
ログデータはTreasure Dataを通して全てを収集し、BigQueryに入れて分析します。分析結果はDomoというBIツールで可視化しており、BigQueryだけでなくDBやGoogleスプレッドシートなどからもデータも可視化しています。また、A/Bテストの結果はリアルタイムに把握できる基盤があります。
— 組織づくりやチームビルディングする上で心がけていることはありますか?
1on1を通じた育成を重視しています。5人ルールという制度があり、リーダーは5人までメンバーを見ることができます。人数を絞ることで、一人一人としっかり1on1ができる、マネジメント以外にも時間をかけられるようにしています。
また、全社的に他のチームに自分の成果を伝えることを重視しています。Demo Day と呼んでいるイベントでは、取り組んだ施策はなぜ行なったのか、どのような成果を生み出したか全社員に向けて発表します。
— 文化形成を意識した組織づくりをしているということですね。
はい。最終的には文化が浸透しているチームの方が強く、プロダクト作りにも大きく関係してきます。
良いプロダクトを作るために重要な3つのこと
— 「メンバーにはフレームワークを伝える」といったお話がありましたが、久保長さんが考える「良いプロダクトを作る上で定石」のようなものがあれば教えてください。
「最短距離で最大のインパクトを出すこと」「学習し続けるチームを作ること」「今取り組むべきことを見極めること」の3つを心がけています。
— 具体的にどうすればいいのでしょうか。
「最短距離で最大のインパクト」を出すためには、アイディアをたくさん出してそのアイディアがどのくらいの確度で成功するのか数値で評価し、上から順に実施していくことです。これをどれだけ繰り返せるかです。
「学習し続けるチーム」にするためには、意思決定を行わせる、失敗できる土壌を作ることです。
「今取り組むべきことを見極める」はもっとも重要だけどすぐには結果が分かりにくいものです。大きな決断をした時には半年後くらいに自分の判断が正しかったのか振り返るようにしています。過去の意思決定を振り返ることで、「見極め力」を改善するようにしています。
— 社内のステークホルダーとはどのように調整を行っていますか?
代表の仲とは週一で1on1を行なっています。意思決定を行う必要がある時は、組織も小さいので関係者を集めて一気に決断するようにしています。また、連携が必要なチームのリーダーは定期的に1on1をするようにしています。
— これからプロダクトマネンジメントを担当する人にお勧めの本があれば教えてください。
二つあります。一つが「イシューから始めよ」という安宅さんの本です。
この本には今取り組むべきこと、つまりイシューを見極めることが大事であると書かれています。イシュー度×アウトプットの質でソリューションの精度が決まる、と。だからイシュー度が高くないと、いかにアウトプットの質が高くても、ソリューションとしては失敗してしまいます。「今取り組むべきことを見極めること」もこの本に書かれていたことです。
もう一つは「考えなしの行動?」というデザイン思考関係の本です。プロダクトが意図しない使われ方をしている例がイラストで描かれていています。
- 作者: ジェーン・フルトン・スーリ,IDEO,森博嗣
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2009/06/18
- メディア: 単行本
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「ユーザーの変な使い方」は新しいソリューションのヒントであるということです。未解決の課題があり、ユーザー自身がそれを 解決する手段を生み出しているわけです。ユーザーが課題を認識していて、自ら解決する道具を作り、それが機能している。この三つが揃ってるということは、ソリュ ーションとして筋が良い、ということです。
— 最後に記事の読者にメッセージがありましたらお願いします。
ぜひ一度Wantedly Visitを使ってみてください。 もちろんウォンテッドリーに話を聞きに来ていただくことも大歓迎です!!
— ありがとうございました。