プロダクトマネージャーの道具箱

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小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

プロダクトマネージャーに訊く #4:Kaizen Platform瀧野さん(前編)

PMインタビュー

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― 自己紹介をお願いします。

Kaizen PlatformのSVP of Productionの瀧野です。現場のプロダクトマネジメントをしながら、プロダクト開発組織のマネジメントを行っています。

Kaizen Platformは現在日米あわせて100名ほどの組織ですが、2年前に10人目の社員として入社しました。

創業当初から変わらない世界観に対して、仮説検証の結果をみて戦略をアップデートすること。新たに明らかになったイシューに対して優先順位をつけて解決策を考えること。なぜ解決すべき問題なのか組織内で共有すること。こうしたことが僕の仕事です。

マーケティングに関わる人のプラットフォームを作りたい

― Kaizen Platformさんはサービスを通じてどのような価値を提供しようとしているのでしょうか。

Kaizen Platformは「A/BテストのSaaSで、テストパターンの制作をクラウドソーシングできるサービス」と認識されていると思います。実際にこれまでは「マーケティングのROIを最大化できるプロダクトです」と訴求していました。A/Bテストはコンバージョンゴールに近いところでやったほうがレバレッジがされるので、色々な人の案でテストすることで効果を最大化できる、と。

ただ、顧客が求めているのはA/Bテストツールでもないし広告の運用ツールでもない。必要なのは、自社の状況に合わせて、学習サイクルを回しながら事業を健全な方向に伸ばしていけるソリューションです。

クライアント企業のマーケッターであれ、グロースハッカーやクリエーターであれ、マーケティングに関わる人たちが改善活動を続ける上でなくてはならないプラットフォームを提供したいと思っています。

― マーケティングの改善活動を続けるためのプラットフォーム、ということですね。

そうです。マーケティングのソリューションは導入するだけで効果が保証されるわけではありません。「競合があのソリューションで上手くいったらしい」「何でうちの会社はやらないんだ」といったやり取りの中で新しいソリューションに飛びついて失敗するのは不幸なことです。マーケティングソリューションの分野は一度試して期待した成果を得られないとすぐ止めてしまうというケースがすごく多いんです。

約束された効能をお金で買う感覚だとうまくいきません。不確実性が高いなかで、自社やマーケットの現状やあるべき姿を正確に捉えるのは難しい。だからこそ仮説を立て、実行し、結果を分析する、というイテレーションを回すしかない。ただそうした改善のサイクルを回せる人がまだあまりいません。Kaizen Platformのサービスによって、マーケターが現状とあるべき姿を正しく定義でき、マーケティング戦略を自信をもって立案できるようにしたいと思っています。

― A/Bテストを効率的にできる、ということでなく、マーケティング活動を正しく行うことができることが価値である、と。

はい。プロダクトが提供すべきなのは機能的な価値だけでなく、使う人にとっての情緒的な価値を提供すべきです。機能性だけで売っているプロダクトはいつか別の何かに駆逐される。顧客が愛着を持つようなユニークなバリューを提供する必要があります。

提供したいのはA/Bテストで売上が上がるという機能的価値だけではありません。「自分たちでマーケティングをコントロールしている実感を持てる」ということが僕らが提供したい情緒的価値です。なぜ施策が成功したのか理解できて、別の状況でも再現できるようになればマーケッター個人としての幸せに繋がるはずです。「マーケティングに関わる人のためのプラットフォームになる」というのは、そういうことなんじゃないかなと思っています。

― クライアント自身が仮説検証のサイクルを回せるようにするために、Kaizen Platformさんはどのようにサポートしているのでしょう。

カスタマーサクセス部隊が、解決したい課題はそもそも何なのかというところから一緒に考えて伴走します。ビジネスモデルやサービスデザイン、KPIを再整理しながら、課題を一緒に洗い出して、課題に優先順位をつけていきます。この一連の作業の結果をオリエンテーションシートに落として、クラウドソースするクリエイターが確認できる状態にします。

この時点で僕らのサービスに対する満足感を感じてもらえることが結構多いんです。日常の運用業務に忙殺される中で忘れていたことを改めて一緒に棚卸しして整理することで、これまでよりも正確に現状を捉えられている感覚を持つことができる。課題のマッピングもできて、事業上の問題を構造的に理解できる状態になります。

そして、実際にA/Bテストを実行した後にカスタマーサクセスチームの担当者が訪問して、クライアントと一緒に結果を分析します。このサイクルを一緒に回すと勘所がわかってくるんですよね。お客さん自身でPDCAサイクルを回せるようになると、それをベースにして色々な施策を自ら試し始めるんですよ。これがKaizen Platformの価値はなんだと認識しています。

実は、顧客満足度と改善度合いの相関は決定的という程には強く無いんです。自分たちで改善サイクルを回すことができるようになったお客さんの場合、仮に10パーセントしか改善してなくても契約を継続してくれます。一方で代理店まかせにしているクライアントの場合、何倍もコンバージョンが改善していても契約が継続しないこともあります。

高校時代に始めたWeb開発の仕事でプロダクトの世界へ

― これまでのキャリアについて教えて下さい。

ガイアックス、GREEを経てKaizen Platformに入りました。

高校生の時に独学でHTMLやPHPを覚えて、個人事業主としてWeb制作の仕事をしていました。最初の仕事は父親の紹介でしたが、それ以降は顧客からの紹介で仕事が広がっていきました。15年ぐらい前のことで、Webを使ってどうビジネスをするかという定石が全然無かった時代です。

オープンソースのCMSをベースにカスタマイズしてWebの在庫管理システムを作り、中古車販売の会社に卸すといった仕事をしていました。

― 高校生の時に始めたWeb開発の仕事が、プロダクトマネジメントに関わるきっかけになっているのでしょうか?

今になって振り返ればそうですね。ただ当時は動機がすごく不純で、普通にバイトするよりも断然お金も良いし、自分ができることがお金に変わるっていうことが単純に面白かったんですよね。

コンテンツをWebに掲載するために、同じようなHTMLを何度も書くのも馬鹿馬鹿しい。どうやったらコンテンツの数を効率的に増やせるか色々考えた末に、今で言うCMSのようなシステムを作ったんです。

これをどういう業態で使ってもらえるか考えました。多品種で流通量も多い業種で求められるような大規模システムは作れない。それなら小売りの中でも流通量が限られていて単価が高い商材を扱っているところがいいだろう、ということで、フェラーリやランボルギーニの個人仲介売買をやってる業者に、在庫管理システムとして売りに行ったんですよ。そしたらめちゃくちゃ受けました。

今考えるとプロダクトのProduct Market Fitのようなことをやっていたんですね。ユーザーインタビューやマーケットリサーチのようなことをやりながら、どんなシステムが売れるか考えていました。ビジネスや新規プロダクトの開発がどういうワークフローで進むのか一通り体験できたので、良い経験をしたんじゃないかと思っています。

プロダクトマネジメントのようなことを最初に考え始めたのはその頃ですね。何が市場で望まれていてどうやったら顧客に価値提供できるのか、どれくらい対価を払ってくれて継続利用してもらえるのか、といったことを考えるようになりました。

― その後、個人事業主やめて就職されたということでしょうか。

大学に入学したものの、Web開発の仕事が順調だったので辞めてしまったんです。そのときに「面白いベンチャーがあるよ」と友人に誘われて、自分の仕事を続けながら業務委託として手伝うことになったのが当時まだベンチャーだったガイアックスでした。

プロダクトマネジメントというよりもプロダクトマーケティング的な仕事で、どういうものをどうやれば売れるのか、といったコンサルティングをしていました。その事業が順調に成長して、自分が作った仕事を引き受ける形で社員になりました。

ガイアックスが上場したあとに退職して、しばらくまたWebの分野でコンサルティングなどの仕事を一人でやった後に、当時まだ100人ぐらいだったGREEに入りました。

GREEではソーシャルゲーム開発のプロダクトマネージメントや、横断的にプロダクトを分析をするBIチームを作って戦略立案を支援するといった仕事をしました。その後、海外戦略チームを立ち上げて担当役員とアメリカの子会社をつくり、しばらくその会社のプロダクトマネジメント部門のディレクターをやっていました。

GREEでのミッションが終わり、次は起業しようと思っていたタイミングで須藤と知り合ってKaizen Platformに入社しました。

プロダクトマネジメントの重要性を認識したGREEでの経験

― 自覚的にプロダクトマネジメントをするようになったのはいつごろでしょう?

GREEに入ってしばらくしてからですね。最初の頃は本当に若かったんで、プロダクトで世の中にどうインパクトを与えるかなんて考えたことが無かったんですよ。インターネットでお金が稼げるということを純粋に楽しんでいましたね。

GREEに入社した際には、内製ゲームの担当になりました。GREEではプロダクトマネージャーが「Webディレクター」という肩書で呼ばれていて、ロードマップを作ったり事業計画やマーケティング戦略を作ったりとプロダクトマネジメントに相当することをやっていました。

その後、国際展開戦略の担当になってアメリカに行くのですが、国内での肩書と同じように「Webディレクター」という役職を名刺に書きました。そうしたらアメリカではDirectorは取締役とか重役という意味なので、会う人にやたらと経営に関するハイコンテキストな話をされるんですよ。そんな中、たまたまそのときに日本人でGoogleやTwitterでプロダクトマネジメントをやっている人たちに会って、自分の役割はディレクターではなく「プロダクトマネージャー」と名乗るのが正しいと教えられました。

当時は向こうでもまだプロダクトマネジメントは一般的ではなかったんですが、「『プロジェクトマネジメント』と『プロダクトマーケティング』があって、両方やるのが『プロダクトマネージャー』だ。」といった話を聞いて、「ああ、なるほど自分の仕事はプロダクトマメジメントだったのか」と理解しました。帰国した際に、GREEにもプロダクトマネージャーという職責を作るべきだと提案しました。

― アメリカでは具体的にどのような経験をされたのでしょう。

当時GREEは影響力が大きかったので、GoogleやFacebookにいたような人たちが沢山集まったんです。めちゃくちゃ優秀だし、キャリアもあるし、MBAや大学でマーケティングやデジタルインダストリーや経営を学んできた人たちが多いんですよね。彼らが部下として入ってくるんですよ。

これは全然マネージできない、日本のいた時と同じやり方では通用しないと思って、とりあえず全員と毎日1on1で話すようにしたんです。そうしたら彼らからすごく色々な質問をされました。「GREEはどういうマーケットポジショニングでいくのか?」とか、「なにが価値なのか?」とか、面接の時にするような表面的な話じゃなくて、ディスカッションが始まるんですよね。

「お金があるからゲームを出したい」ではなくて、なぜやる価値があるのか明確でないとシリコンバレーでは響かない。「GREEのミッションやビジョンは何で、そこに向かうための戦略や目標は何か」という、いわゆるVMSO(Vision/Mission/Strategy/Objective)を示す必要があります。「お前にはビジョンが全然感じられない」と部下に言われて相当ショックでした。

なりたい姿や信じている価値があって、そこに行き着く道としてストラテジーがある。それをエグゼキューションするのが日々のプロダクトマネジメントなのだ、ということを強く認識しました。

振り返ると、あの頃はマネジメントについて沢山学ぶことができたなと思います。最初は皆毎日夕方の4時とか5時になると帰ってしまってたんですよ。でもミッションやビジョンをちゃんと伝えてからは、価値を実現するまでやりきろうと頑張ってくれるようになりました。いくつもアイデアが出てエグゼキューションの手数も増えて、学習のサイクルが回り始めるのを目の当たりにしました。プロダクトマネジメントの重要性を実感しましたね。

― メンバーとの対話のなかでプロダクトマネジメントを学んだということでしょうか。それとも、本を読んだり、誰かに聞く機会があったのですか?

当時はシリコンバレーでもプロダクトマネジメントはまだそれほど体系化されてなかったと思います。GoogleはこうやってるけどFacebookは全然違うやり方やっている、Twitterの場合はこうだ、など、オフィスが近かったのでカジュアルに情報交換してました。他社がどうやっているのかという実例をよく見ていました。

投資家や現地にいる有名なプロダクトマネージャーと話す機会もたくさんありました。たとえば日本人だと、GoogleからTwitterに行かれてその後現地で起業された上田学さんや、Ingressを作り、今はアジア統括本部長をやられている川島さんから、「こういう苦労がある」「こういう時はこう」といった話を伺うことができて、自分の解釈を日々の業務に持ち帰り試してみて、自分なりのやり方を作っていきました。

後編に続く(5月27日公開予定)