プロダクトマネージャーの道具箱

小さなごちそう

プロダクトマネジメントや日々の徒然について

『価値のインターネット』時代のプロダクトマネージャーへ

先日なにかと話題のVALUに登録してみました。 

プロダクトマネジメントの悩み聞きます(ただし話を聞くだけで悩みの解決はしません🤗 )」という無責任な優待を公開してみました。現在公私ともに忙しく、時間が作れないので売り出しはしないかもしれませんが、もしこの記事をお読みの方でVALUユーザーの方がいましたらウォッチリストに追加いただけると嬉しいです。VALUerの皆さまを対象に、PM限定サロン、PMランチ会みたいな交流の場をつくる、など無形の価値を提供できたら面白いかも、といったことも考えています。

正直なところVALUについては公開された当初は若干懐疑的に見ていたのですが、時には利用者が想定外の使い方をしてトラブルを起こしながらもユーザーが使い方を発明しながらサービスの価値を向上させていくプロセスには、mixiTwitterが現れた当初のようなユーザー主導の盛り上がりを思い出し、少しワクワクするものを感じます。

VALUの盛り上がりの背景には投機的な思惑を持った人が一定数集まっているという側面もありつつ、お金を持っている持っていないに関わらず、お金の使い道がないという人が増えているということなのではとも思いました。無料で手に入るものでおおよそ満足してしまい、あえてお金を払ってまで手に入れたいモノやサービスが身の回りに少ないということではないか、と。VALUのようなサービスを使う人は、著名人や志のある人に投資し、間接的に世の中を変える、影響を与えることで高次の社会的欲求を満たそうとしているのではないでしょうか。あるいはGoogleで検索すれば手に入る無料の情報では飽き足らず、対価を払うことでのみ得られる特別な情報、特別な経験を求めているのかもしれません。

VALUはビットコインを利用することで、「個人が株式会社のように価値をトレードできる」というコンセプトを実現しています。適法性についてはまだ色々議論の余地があるようです。小飼弾さんがリードエンジニアとしてVALUに参加したとのことで、これからさらなるサービスの発展が期待されます。

ビットコインを始めとする暗号通貨については、投機的な側面に注目が集まりがちだったり、犯罪者が使うアングラマネー的なイメージを持つ人が多かったりするので、身の回りで積極的には話題にすることは避けていました。ただ個人的には昨年から興味を持ちはじめ、技術仕様や歴史的経緯を学びつつ、ブロックチェーンや暗号通貨がもたらす社会的なインパクトについて考えています。

ガートナーが先日発表した2017年版ハイプ・サイクルでは、ブロックチェーンが過度な期待期から幻滅期に位置づけられています。

幻滅期を過ぎると、次は啓蒙活動期です。ということは、恐らくブロックチェーンを使ったアプリケーションがこれからいくつも現れるでしょう。これまで解決できなかったユーザー課題や社会課題を解決し、ビジネスが大きく変わる可能性が極めて高いと思っています。

メッセージングからペイメントへ

さて、LINEやSnapChatなどのメッセージングアプリが一世を風靡しましたが、ユーザーエンゲージメントの中心はメッセージングからペイメントにシフトしつつあります。中国ではキャッシュレス、スマホ決済が進み、屋台でもWeChat PayやAliPayを使って支払いができる、という話をよく耳にします。AliPayは日本でもサービスを開始するようです。

韓国のカカオトークのオンライン銀行業、Kakao Bankが5日間で100万口座を開設したそうです。国際送金のソリューションにRippleを採用するという噂もあります。

もちろんLINEも以前からLINE Payというペイメントサービスを提供しています。

KyashやPaymoなど、日本の法の枠組み内でVenmoのように簡易に個人送金を可能にするサービスも増えています。日本では銀行や消費者を保護し経済の安定性を維持するために、金融・証券についてはかなり厳密な法規制が行われています。個人送金サービスの壁は、AML(Anti Maoney Laundering)のためのKYC(Know Your Customer)、本人確認のプロセスが必要なことです。最近の個人送金系サービスがこのKYCの壁をどう回避しているのかについては、先日新しい発想の株式投資サービスをβ公開した株式会社FOLIO CDOの広野さんが、ブログで非常にわかりやすく解説しています。

友達に寄付(ファンディング)ができるpolcaというサービスも話題ですね。

Kyashで集金してpolcaで出金する、みたいないわゆる三店方式のような現金化のハックを考える人もいて、大人としてはちょっとドキドキしてしまいます。

CASHという「質屋アプリ」も「全力で振り切ったサービス」として話題になりました。

チケットキャンプがビットコイン払いに対応したそうです。チケットキャンプのユーザー層が果たしてビットコインを使うのか、とても興味深いです。そのうちメルカリもビットコイン払いに対応するかもしれませんね。

目先をBtoCからBtoBに変えると、マイクロソフトがAzure上でEthereumベースのブロックチェーンを容易に管理できるフレームワークを企業向けに発表しました。

カナダのブロックストリーム社がブロックチェーンを中継する人工衛星の稼働を開始したそうです。インターネットに接続できないが太陽エネルギーを得られる、赤道直下の砂漠のような場所で暗号通貨のマイニングや取引が可能になるのかもしれません。そういえばモトローラの衛生携帯サービスのイリジウムが過去に破綻したのでは、と思いましたが事業継承されてサービスが継続していました。技術革新によって衛星の開発や打ち上げコストが相当下がっているようですね。

何の話をしているのかよくわからなくなってきましたが、とにかくペイメントに関する技術やインフラ、そして法律が整備され、『インターネット越しに誰かに価値を送るサービス』がこれからも増えていくのでしょう。

Token Salesとユーザーエンゲージメント

ICO(Initial Coin Offering)という、企業が独自に暗号通貨を発行して資金調達を行う手法が話題になっています。

イデアを簡単にまとめたホワイトペーパーだけでICOするケースも多いようで、かつてのドットコム・バブルを連想してしまいますが、AmazonGoogleがインターネット・バブルを生き残って巨大企業になったように、ICOバブルから次世代の企業が生まれるのかもしれません。

ICOについては、下記のスライドが非常にわかりやすいです(この資料ではICOではなくToken Salesとあえて表現しているそうです)。Token Salesはプラットフォーマーから搾取される「小作人化したコンテンツ提供者」に適正な利益をもたらす、ということのようです。個人的には『通貨モデル』のAmazonの例がとてもわかりやすいと思いました。

Token Salesが本当にヤバいと思うのは、ポイントやバッジなどのサービス内でのみ流通していたゲーミファイ・リワードが、サービス外での経済的価値と結びつき、最強のエンゲージメント獲得システムになり得ることです。

例えばTwitterが独自Tokenを発行してユーザー間の送金を可能にしたらどうなるでしょう?実はこれはtipmonaというサービスによって既に実現されています。

tipmonaのような仕組みをTwitter自身が提供したら?もともとアットマークで他のユーザー宛にツイートするメンションの仕組みは、Twitterユーザーが発明した習慣が採用されたものなので、ありえないとも言えません。tipmonaはモナコインを送る仕組みですが、tipxrpというXRPを送るサービスもつい最近作られたようです。

例えば、Twitter広告(プロモツイート)の出稿にはトークンが必要で、ブランドのTwitterアカウントをフォローしたユーザーにリワードとしてトークンを配布可能にする、トークンは取引所で時価で売買される、そんな仕組みはどうでしょうか。広告主によるトークン需要により、Twitterトークンの価格は値上がりが期待されます。ユーザーはTwitterトークンを得るためにさらにTwitterを使うようになるかもしれません。既に大きなユーザーベースを持ったTwitterのようなサービスがこうした仕組みを採り入れたらどんなことが起こるのか、想像するだけでワクワクします。

メッセージングアプリのKikICOでやろうとしているのは、そうしたトークンによるエコシステムの構築のようです。

▼ Kin: A decentralized ecosystem of digital services for daily life.

KikのICOについては日本語版のホワイトペーパーが公開されています。(ただちょっと堅苦しい日本語なので英語の方を読んだほうが理解しやすいかもしれません)

Kikは既に2億人以上のユーザーベースをもつチャットアプリです。サービス内のkikポイントによってスタンプを購入したり、アプリ内のブランドページをフォローするとkikポイントが付与される、といったアプリ内通貨、リワードの仕組みについての実験を過去に行い、実際に多くのポイント・トランザクションを発生させることができたそうです。このkikポイントをkinというサービス外の取引所で時価取引されるトークンにする計画があるようです。

評価経済ブロックチェーン

もちろんワクワクする未来だけが待っているわけではなく、多くのテクノロジーがそうであるように、使いようによっては人々の生活にネガティブなインパクトを与える結果になる可能性もあります。

VALUはソーシャルメディアのフレンド数などをもとにその人の経済的価値を算出する、といういわゆる評価経済の仕組みです。こうした個人のインターネット上の評価や信用情報が、ポジティブ情報もネガティブ情報もあわせてブロックチェーンで管理、共有されるようになるかもしれません。

飲食店の予約を無断キャンセルした顧客の電話番号を共有するサービスが論議を呼びましたが、サービス提供者側に切実な課題があることを考えると、個人の評価を共有するブロックチェーンが作られる、というのもあながち突飛な発想ではないように思えます。

AirbnbUberなどに代表されるシェアリングエコノミーと、評価経済は地続きです。例えば車や部屋、時間をシェアするといっても信用度がわからない人にはシェアしにくいですよね。できれば信用度の高い人、評価の高い人にサービスを提供したい。そうすると、今はそれぞれのサービス内でのユーザーのレビュー(評価)が蓄積されていますが、いずれサービスを越えて個人の評価が共有されて、評判の良い人ほどより質の良いサービスをより安く受けられる、という世界になるかもしれません。

そもそも世の中というものは人と人との信頼によって成立しており、信頼による格差は既に存在するのかもしれませんが、今後はそれがより可視化され信頼のある人とない人の間で享受できる豊かさの格差がさらに拡大するかもしれません。ブロックチェーン上で管理されたグローバルなレビューシステム上で、未評価だったり評価が低い人は高いコストを払わないとサービスを受けられない、なんて時代が来るかもしれません。

『情報のインターネット』から『価値のインターネット』へ

ところで、デスクトップ用Safariの仕様変更によってクッキーによるユーザートラッキングが困難になりリターゲティング広告が表示しにくくなる、という記事が話題になりました。

ちょっと飛躍しすぎかもしれませんが、これはもしかしたら「無料のインターネット」時代の終わりの始まりかもしれないなと思いました。現在は広告で収益を得ることで無料でコンテンツやサービスを提供することが可能ですが、近い将来コンテンツ閲覧やサービス利用をするたびにごく少額の利用料を徴収するといったことが可能になり、広告モデルではなく超少額課金モデルがインターネットサービスの主流になるかもしれません。

なお、MITメディア・ラボ所長の伊藤穰一さんは「ビットコインは1989年くらいのインターネットなのかなと。まだ足場が固まっていないのに、いろいろ建ってしまっている。もうAmazonを作ろうとしている。」とおっしゃっているので、もしかしたらちょっと先走りすぎかもしれませんが。

Ripple社はIoV(Internet of Value)の実現をビジョンに世界中の銀行とコンソーシアムを組みソリューションの開発を進めており、「価値のインターネット時代のGoogleになるのでは」と期待する人もいるようです。

新しいインターネット時代の到来にそなえる

さて長々と書きましたが、要は『情報のインターネット』から『価値のインターネット』へのシフトが始まっており、私たちプロダクトマネージャーは時代の変化に追従できるよう基礎的な技術を勉強しておいたほうがいいのではないか、ということです。

インターネットサービスのプロダクトマネージャーである皆さんが、かつてWebサーバーやWebアプリケーションの基礎について学んだように、ブロックチェーンの基礎的な技術を学ぶべきタイミングだと思います。ビットコインブロックチェーンについては縦書きの解説書がいくつも出版されているので読みやすそうなものを選んでまず読んでみてください。例えば大石さんの本はビットコインの仕組みがわかり易く説明されています。 

インチェック大塚さんの本は群を抜いて分かりやすいのでお勧めです。

 余談ですが、開発者コミュニティを中心に完全な非中央集権の金融システムの実現を目指すBitcoinの支持者と、 営利企業を中心に国際的な送金システムの実現を目指すRippleの支持者は、本質的に相性が悪いようでTwitterなどで激しく罵り合い論争を繰り広げています。彼らの侃侃諤諤とした宗教戦争論争を観察するのも暗号通貨の楽しみの一つです。(嘘です。すみません調子に乗りました)

個人的には技術者としての観点ではBitcoinが、マーケターとしての観点ではRippleがそれぞれ実に興味深いです。つまりプロダクトマネージャーとしてはどちらも非常に面白い、ということです。

初心者向けの本で概要をつかんだら、ぜひMastering Bitcoinを読んでみて欲しいです。僕は本書でBitcoinの技術的な設計の妙に心を奪われました。 コードがある程度読める人にとっては、技術に不案内な人向けにビットコインの仕組みをアナロジーで説明した本よりも、こちらの本の方がわかりやすいはずです。

ビットコインとブロックチェーン

ビットコインとブロックチェーン

 

 日本語版は2014年に出版された原著を訳したもので、2016年に出版されています。原著はこの7月に2nd Editionが出版されました。先日のビットコイン分裂騒動の要点であるBIP-9やSegWit、Lightning Networkに関する説明が追加されています。簡易な英語で書かれているので初版の日本語版を読んだ後にぜひこちらも一読をお勧めします。 

Mastering Bitcoin: Programming the Open Blockchain

Mastering Bitcoin: Programming the Open Blockchain

 

 ビットコインが通貨としての信用を得るまでの歴史的経緯についてはデジタル・ゴールドが詳しく、読み物としても非常に面白いです。 

本書を読むと、ハイパーインフレやデフォルトなど様々な出来事が奇跡的なタイミングでいくつも起こったことで、ビットコインが国家を越えた価値の保存手段として信用を獲得していった経緯がわかります。

さて、思いのままに書き綴ったので長々とややエモい文章になってしまいましたが、ブロックチェーンや暗号通貨、Token Salesが色々と面白いので、インターネットサービスのプロダクトマネージャーの皆さんはぜひ勉強しましょう、というお話でした。こちらからは以上です。