因果ループ図でプロダクトの改善点を考える
システム思考では、システム(物事が動くカラクリ)を因果ループ図(Causal Loop Diagram)によってモデル化する。例えば、人口の増加は下記のようにモデル化される。
出生数が増えれば人口が増える。人口が増えればさらに出生数が増える。このサイクルだけだと無限に人口が増加していくが、死亡によって人口増は抑制される。人間の寿命の存在がこのシステムの制約(Constraints)の一つになっている。
ここに医療の発展や戦争などの影響を考慮すると、下記のようになる。
因果ループ図ではシステムの状態を表す変数(Variables)を書き出し、変数同士の関係を矢印で示す。変数間の相関の正負(片方が増えれば連動してもう一方も増えるのか、逆なのか)を+-の記号で表す。因果ループ図は下記の参考図書でわかりやすく解説されている。
なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方
- 作者: 枝廣淳子,小田理一郎
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
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プロダクトやプロセスの改善を通じてシステムのパフォーマンスを最大化するのが、プロダクトマネージャーの仕事だ。その際、この因果ループ図を書くと改善すべきポイントを発見しやすくなる。
フリマアプリを例に因果ループ図を書いてみよう。売りたい、または買いたいと思う取引希望者が増えれば、売買の成立が増える。売買の成立が増えれば手数料売上が増える。売上が増えると広告費を増やすことができ、新規ユーザーを獲得できる。ユーザーが希望通り売買できればリピート取引やクチコミが増える。
さて、このシステムの最終アウトプットが手数料売上だとすると、このシステムのパフォーマンスを最大化するにはどうすれば良いだろうか。広告の投下量を増やすことで短期的な売上は伸ばすことができるが、投資回収に必要な期間は長くなり、システム全体の効率が上がったとは言えない。
因果ループ図を元に考えると手数料売上の先行指標は売買成立数となる。そこで売買成立数を制限しているものが何か考えてみよう。
買う側の立場で考えると、いかに出品が多くても欲しいものがなければ買わないし、値ごろ感がなければやはり買わない。そうすると、売買成立数の制約になるものとして、
1. 出品ニーズと購入ニーズのアンマッチ
2. 出品金額と相場とのアンマッチ
があげられそうだ。
そこでニーズのアンマッチを解消する施策として、
a. 販売実績の多い品種を売り手に提示することで、出品傾向を変える
b. 広告のクリエイティブや媒体を変更することで、売り手が多く買い手が少ない品種に対してニーズを持つ会員を増やす
というのはどうだろうか。
出品金額と相場のアンマッチを解消する施策としては、
c. 売買成立実績をもとに出品時に相場価格を提示する
などが考えられそうだ。
a,cはプロダクトの機能追加によって、bはマーケティング活動によって改善できる。
以上の例のように、ビジネス・システムの全体像を因果ループ図で描き、ユーザー心理を踏まえてボトルネックになる箇所を特定することで、改善施策を検討しやすくなる。
KPI設計を行う際に因果ループ図を書いておくと、活動の因果関係に関する認識を関係者間で合わせやすい。このフリマアプリの例では、ニーズのマッチングを考慮せず新規ユーザー数だけを指標にしてマーケティング活動を行うと、ユーザーのLTVが上がらない可能性がある(ユーザー増加量と売買成立数の増加量が相関しない)。よって入会したユーザーに期待するアクティビティを考慮して、ユーザー獲得活動をコントロールする必要がある。例えば「新規登録ユーザーのうち、注力品種に購買意欲を示したユーザーの数」といったKPIを設定する。
なお、少ない労力で大きくパフォーマンスを改善できる箇所を、介入点(leverage points)という。限られたリソースで最大の効果を得るためには、この介入点をいかに発見するかが重要となる。